16-18 本番に備えた取り決め
「この酒はすっきりしているけど辛めで、飲む人を選びますね」
「こっちは甘めです。ただ、度数は高いので子供向けなら、何かで割った方が良いかも」
「子供に飲ませる酒は無い。こっちの酒は口当たりも良くまろやかです。万人向けですな。しかしこれといった特徴が無く、脇役向けとでも言いますか。どの場面でも2番手3番手になりそうな気はしましたな」
試食会の翌日。
それぞれの料理や酒の評価を聞いて回るが、一番細かく評価をしていたのは酒飲みたちだった。
一気飲みやがぶ飲みといった印象が強かったが、その中でもちゃんとテイスティングをしていたのである。
「それは当然です。仕事をしなければ、次からは飲ませてもらえないでしょう? ならば次の為にもしっかり味わいますとも」
「なら、普通に飲めば……」
「楽しむ所は楽しむ! 飲むときは飲む! 酒が絡めば全力で挑む事こそ、酒飲みの生き様ですぞ!」
「いや、普通に飲む事は悪い事じゃないと思うんだが」
こいつらの考える事は今一つ理解できないが、やる事をやったうえで楽しむぐらいは大目に見るべきか。
真面目に深く考えると、ドツボに嵌りそうである。
試食会は、持ち込んだ料理が多いため数日かけて行った。
よくもまぁこれだけ買い付けたと思ったが、だからこそ途中で路銀が怪しくなったわけだ。
売り物があったおかげで買い付けできないという事は無かったし、むしろノリと勢いと何となくで鉄を大目に売ったからむしろ使い切るために大盤振る舞いをしてしまった。
荷物が多くなったのは仕方が無いのである。
「その鉄の販売のせいで、余計なことに巻き込まれた感はありますが?」
「その件は反省会で散々叩かれたじゃないか。次からは注意するから、もう勘弁してくれ」
反省会に続き試食会が終われば、次回以降の行動計画である。
ニノマエの人員をどこまで動かすか、そして現地で何を買うかの選定を行い、同時に商品の持ち込みについても検討させた。
話の焦点になったのは鉄で、これをどこまで売り払うかを相談することにした。
金属は重いので、場所は取らないが移動の制約が大きくなる。鉄は金属だから腐らないが錆びるし、移動中の振動により湿気対策の油紙が破れてしまうので、保護するにも限度がある。
何より、一度持ち込むと、二度目三度目も期待される。
そんな、簡単な商品でもないのに、だ。
はっきり言って、鉄を売るより蕎麦や米といった穀類を売った方が商売としてはよほど安定する。
鉄はどこでも必要とされているが、売りやすい商品ではないのだ。
精々、掘り出し物のように鉄製品を一つ二つ紛れ込ませるのが限界なのだ。
「そう言えば、ドワーフはこちらに招くのですか? いくつか想定される展開のうち、あちらが移住を希望しそうなものがあるのですけれど」
「いや、要らないだろう? 鍛冶師がいなかった時分ならともかく、もう十分な数の鍛冶師が村に居るんだから。これ以上増やす理由は技術交流、それ以外に無いよね。
でも、そこまで外部の技術が欲しいとも思っていないし、来て欲しくないっていうのが本音かな?」
なお、ゴブニュート村は十分な数の鍛冶師がいるため、外部から人を呼ぶ理由がない。
外よりも先進的な技術を導入している村は、機密情報の塊だ。外に情報を漏らしたくない俺としては、呼ぶことで発生するデメリットの方が多い様に感じる。
移住は基本認めない方針で行くことにした。
他にも色々と細かい取り決めを行い、次回に向けて旅の用意を進めていくのだった。