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16-14 中陸奥の製鉄業②

 市場調査の一環でもあるし、俺は工房の方に顔を出す事にした。

 鉄製品ではなく、手持ちの鉄を売り払うぐらいは出来るようなので、無駄にはならないだろう。



「ここから先、関係者以外は立ち入り禁止だ」

「あー。そうなんですか? 金物屋で、ここなら鉄を買って貰えると聞いたのですが。

 では、工房に鉄を売る場合、どこで商談をすれば宜しいでしょうか?」

「何? お前は鉄を扱う商人なのか?」

「まあ、今回限りの様なものですが。鉄や鉄製品を商っております」


 工房は仙台市の中ではなく、仙台市から少し離れた場所にある。

 そこまで足を運んでみたのだが、工房付近は余所者お断り、関係者以外は入れないようになっていた。

 あの金物屋の店長さん、「細かい事は現地で聞け」と言って、ロクに説明もせずに送り出してくれたからな。できるだけ下手に出て、頭を下げつつ話を聞こう。



「成る程。確かに鉄であるな。おい」

「はっ!」

「3番工房の連中が鉄鉱石を欲しがっていただろう。連れてこい」

「了解であります!」


 俺は詰め所に案内され、そこで商品、鉄のインゴットを複数種類取りだし、これを売るつもりだと説明した。

 値段に関しては、同じ重さの鉄製品のおおよそ半分。

 加工賃の上乗せを考えれば、その程度が妥当だと思った。



 そうしてしばらく待つと、ドタドタという足音とともに、複数のドワーフ(・・・・)が姿を現した。


「おい! 鉄があるってのは本当か!?」

「どんな鉄だ? 粗悪品か? 普通のか? それともまさか、高品質なのか?」

「おい、お前ら! 鉄を買うのはウチが先だぞ!!」


 詰め所のドアを乱暴に開けた彼らは、俺を見ようともせず、すぐに鉄の方に意識を向けた。

 そうして俺に何も言わず、鉄のインゴットを手に取り品質を確かめ始めた。


「恐ろしく均一だな。ムラがねぇ」

「む? こっちの山とそっちの山で物が違うな。こっちは粘り気を、そっちは硬さを重視してある」

「他の鉄とは上手く混ざりそうにねぇ。これは、この山ごとの加工以外は受け付けそうにないな。鋼に近い」


 鉄のインゴットは5kgごとに3種類、方向性を変えた物を用意してみた。

 金属は剛性と柔性のバランスが重要で、混ぜ物をして色々と変化させる事ができる。

 そういう意味では鋼やステンレスも、鉄と言えば鉄なんだよねぇ。鉄合金なだけで。



 一通り品定めが終わった男ドワーフたち3人は、一斉に顔を俺の方に向けた。


「いくらだ?」

「これぐらいですが?」


 値段を聞かれたので、俺は全部買うとこれぐらいですと、値段を提示した。


「もっと無いか?」

「今回はこれだけです」

「もっと無いか? 次はいつ来る?」

「ええと? まぁ、1ヶ月か2ヶ月したら、またこちらに来ると思いますけど……」

「この10倍でも20倍でも持って来い。全部買ってやる。いや、倍額出すから絶対にあるだけ全部、持って来い」

「返事は!」

「はい!!」


 5kgを3セットというのは、彼らにしては物足りない数字だった様だ。年長らしき1人がどこか鬼気迫る顔で、俺に追加の発注をかけた。

 思わず言葉に詰まったら、顔を近づけられ、脅す様に返事を求められた。

 その勢いに飲まれ、思わず「はい」と言ってしまった。


「ずるいぞ! おい、俺の分は!? 俺の分も持って来いよ!」

「ウチが一番鉄不足なんだぞ! お前らはもっと遠慮しろ!!」


 すると、他の2人が騒ぎ出す。

 同じ工房から来た訳では無く、複数の工房からやって来た様だ。俺を中心に鉄の取り合いが始まってしまう。



 俺は契約が決まったから、すぐに準備するため明日には制作元に戻りますと言ってその場を逃げ出した。


 怖いよ、あいつら。

 殺し合いなんかよりもずっと精神を削られるというか、気合いの入り方が違うというか。

 絶対にお近づきにはなりたくない。



 まぁ、その次は無いって、今度遭う(・・)時はズルズルいかない様に断固たる態度で臨まないと。

 今から心構えだけしておけば大丈夫だろう。


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