16-12 仙台到達
適当な鉄の鍋や農具を持ち込み、売ってみた。
「これなら、3万出すね」
「よし。それで商談成立だ」
「値段交渉はしないんだな」
「ああ。安めとはいえ、そこまでボッタクリというわけでもないんだろう?」
鉄製品を数ヶ所に売り込んで、路銀ならぬお土産代を捻出。
余計な買い物をせずに旅をするだけなら手持ちで足りるけど、我慢をしたくないのだから仕方がない。
常陸の国に美味しい物が多いのがいけないんだ。
商談そのものは、特に揉める事もない。
岐阜での売値と比較すると1割か2割ほど安く見積もられるが、信用が無いうちはそこまで酷い値段設定とも思わない。
こちらの足下を見た交渉で無いなら、こころよく売りつけるよ。
それよりも、買い物の時間が無くなる方が嫌だ。
この日は売却と購入の商談に時間を使いすぎたため出立の予定が遅れ、陸奥の国の入り口、福島県のあたりまでしか進めなかった。
陸奥の国は、歴史で言うなら福島県・宮城県・岩手県・青森県の4県がまとめて一つの国扱いされる。
戦国武将としては蒲生氏郷、伊達政宗や南部信直あたりが有名だろうか。
福島のあたりだと蒲生氏郷とその他だっけ。伊達政宗が宮城で岩手が南部、青森は真っ二つで南部と津軽、だったと思う。
これは時代によってコロコロ勢力図が変わるので、どこが誰という話をするとかなりゴチャゴチャする。俺の記憶にある配置はどの時代だったか覚えていなかったり。
戦国武将の領地ってもの凄く頻繁に変わるんだよ。
で、いま俺がいるのは福島県のあたりだけど、ここは陸奥の国では無く、『南陸奥の国』と言う事になっている。
宮城が『中陸奥の国』、岩手が『北陸奥の国』、青森が『奥州の国』となっている。
正直、『会津』『仙台』『盛岡』『弘前』の藩で国名を決めた方が良かった様に思うんだけど、なんでこうなっているか、俺が決めたわけではないので知った事では無い。
とりあえず、福島県一帯は『南陸奥の国』である。
今回は帰りも通る国と言う事で、最小限の情報収集だけに止め、先を急いだ。
常陸の国から入る時、少し手間取った事だけ覚えておく。
『中陸奥の国』と言うのも何か違和感があるけど、そこは堪えて目的地までやって来た。
国に入る時に何か言われる事も無く、平和なものである。
陸奥の国3つはそれぞれ仲が良く、情報伝達の関係で県レベルの国分けをしているが、別に一国でも特に問題ないほど、仲が良い。
で、仙台市。
「んー。まぁ、こんなものかな」
「普通の都市ですから。特筆すべき事はありませんよ」
仙台市は国の首都だけあって賑わっているけど、それだけである。
美味しい物はあるし、名産品もあるけど、これまでに通ってきた都市だってそれは同じだ。
故郷でもなんでもない俺たちにとって、感慨深いというものは無い。
目的地に着いた事は着いたが、だからといってやりたい事がある訳でも無い。
「今日明日は休みで、出立は2日後。それまでちゃんと休んで置いてくれ。
小遣いを渡しておくので、好きに使っていいよ」
ある種、無目的のまま、俺たちは仙台市で休暇を取る事にした。