16-8 武蔵の国①
甲斐の国はあっさりと通り過ぎた。
甲斐の国が悪いとか、何も無かったという訳ではなく、久しぶりの旅で学ぶべき事のほとんどを信濃の国が教えてくれたというだけである。
強いて言えば、役人の中に下衆がいたと、それだけだ。
国が変わったところで「異国」というカテゴリに変わりは無く、学べる内容も同じ山国という事で似たようなものになるのだ。
そうなると次は武蔵の国である。
東京都・埼玉県を足したのが武蔵の国。今回は行かないけど、神奈川県は相模の国となる。
ここから茨城県こと常陸の国を経由し、福島県以北の陸奥の国で、ゴールとなるはずなんだけどね、戦国的には。
現在は東北地方も食料生産能力が高くなっているので、もっと細かい国に分かれている様だけど。
細かい国名に関しては、詳しい人が見つからなかったのでまた近くに行ってから聞き込みをすればいいかな。
さて、武蔵の国の移動と言えば、川を使った船旅である。
俺は狼に乗るので関係ないが、普通の旅人は川を使って東京湾方面まで移動する。で、そこから海の船に乗り換えとかするんだね。
陸路を行くのは俺のような変わり者か、単純に川上の方に向けて進む人ぐらいだ。動力の無い船は流れに沿うもので、逆らうものじゃないからね。
そんな下りの船を避けるように、川から離れた所を一気に進む。
これまでは山が多く視界が遮られる場所の方が多かったのだが、平野の多い武蔵の国では大狼は目立つ。
馬並みの大きさがあるので、遠くからでもハッキリ見えてしまうのだ。
山が全く無いわけではないし、多少は気にせず進んでいるけど、あんまり目立ちすぎるのは良くない。
みんなとも相談して、草原大狼は一度カードに戻すことにした。
「山が少なくなることの弊害だな。オーディンたちが目立ち過ぎた」
「創様。現実逃避は良くないです。今晩の宿は、今からではどうにもなりません」
草原大狼たちが目立ったことで、その背に乗っていた俺たちは危険人物として、武蔵の国の首都である東京市から締め出しを食らってしまった。
流民、つまり異国の民であり、推定とはいえ召喚魔法という危険な能力を持っている。そんな危険そうな連中は街に入ってほしくないと、そのように言われてしまった。
街でちゃんとした宿を取りたかったのだが……諦めるしかないらしい。
なお、現在時刻は午後3時ぐらいだが、ここから次の町に移動して宿を探すというのは困難だ。
移動時間に加え、宿を探す時間が要る。
ネットで予約のような、簡単お手軽な宿探しではないのだ。
持ってきた家は、一度設置すると動かすのが困難だ。
設置するのは帰り道と決めているので、こんな所では使えない。
それを考えると、東京市から離れ普通にテントで寝るのが無難だろうか。
ありがたい事に、空は晴れている。
野宿で雨に降られる心配はないようだ。
死ぬほどどうでもいい話だが、東京市は一つだけである。
地下に第三新東京市があるとか、そういった話は無い。