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16-6 甲斐の国・入国審査

 信濃の国では、多くの出会いと学びがあった。


 出会った食材はちゃんと確保したし、確保しきれなかった食材もリベンジの予定を立てた。

 食い逃したものは多く、俺の気持ちは未来を向くようになっていった。


 あとは一朝一夕ではどうにもならない情報収集の難しさを実感した。

 誰かの護衛をするには、俺たちは迫力が足りないという弱点に気付かされた。

 頭の痛い話であるが、今後の努力次第で改善できない問題ではない。



 総じてみれば、信濃の国に来たのは正解だった。

 ちょっとした下見の旅が大きな経験になったのである。

 これはちょっと、本気で旅に出るのも良いかもしれないと、そんな考えを抱く程度に。



 いつか旅に出るかどうかは横に置く。

 旅は得がたい経験を与えてくれるが、同時に厄介事を運んでくる。

 山賊に襲われた事もそうだし、今、目の前にいるいけ好かない役人と話をしなければいけないのも、俺にとっては負担になるのである。





「ふーん。流民ねぇ。まー、払う物さえくれれば通すけどさぁ。ちょっと、最近ゴタゴタがあったでしょ。越前で。

 アンタらがその一部かもしれないしぃ? 難民は、うち、お断りなんだよねぇ」


 いちいち厭味ったらしいこの男は、入国関連の手続きをする役人だ。

 入国手続きという事で指定の書類を一通り埋めたのだが、この男がその書類を見ると、こちらを下に見た嗜虐的な顔を見せたのである。

 付け加えると、俺たちが金を持っていそうだからと、袖の下を集りにきている。

 直接「金を出せ」とは言っていないが、それに近い発言を何度も繰り返していた。



 ほんの数万円程度を払う事は簡単だが、こんな下衆に金を出したくないのも事実である。

 そして、俺はここから甲斐の国に入国しなければいけない理由など持っていない。


「そう。じゃあ、別の所に行くよ」

「は?」

「俺、別にここから甲斐の国に入る必要は無いんだよね。急いでないし。だから別の所に行くよ。

 あぁ、勿論、ここで下衆な役人が居たって話は広めておくけど。それじゃ」

「うぉい! ちょっと待ってよ! ちょっとした冗談じゃないか!!」


 俺は入国目的を仙台まで行く用事があるので通過したいとだけ書いて提出したけど、それをどのように見るかは人次第である。

 仙台まで行く長旅の間で、どこまで悪口が広まってしまうか。

 下手をすれば、甲斐の国と信濃の国の国境に広く伝わってしまう可能性があった。


 そこまでの可能性を考慮したかどうかは知らないが、男はあっさりと踵を返した俺を慌てて引き留めた。

 流石に悪口を広められるのは嫌だったらしい。


「下手に他の連中の評判が下がると、困ったことになるんですよ。魔女狩りです」


 こちらが本気でそういった対応をする人間だと、直感的に分かったらしい。言葉が丁寧なものになり、普通に通してもらえた。

 そのまま帰れた場合は実際にやるので、その危険察知能力は正しく働いていると思うよ。


 もしも俺がそのままここで会ったことを広めた場合、話が広まり、誰が原因かの聞き取り調査が行われるらしい。

 ここの役人のまとめ役はそういった事に厳しい人なので、もしもバレたら首になって路頭に迷う事になる。


 だったらやるなよと言いたいが、それでも物欲が勝ってしまうのだからしょうがないと開き直られた。



「創さんは甘そうな人に見えたので、つい」

「……俺、そんなに甘ちゃんに見えるのか?」

「ええと、その、はい。かなりお人よしに見えますです」

「マジかー」


 どうやら平時の俺は、威圧感が足りないらしい。

 何かやると決めると顔つきがガラッと変わるらしいが、そんな自覚はした事が無い。言われた事も無い。



 頬に十字傷でも付けてやろうかと思ったが、それで効果があるかどうかは未知数どころか、期待できないと言われて終わりである。


 顔に威厳が足りない。

 こればっかりは、どうしようもない。

 なんだかなー、である。

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