16-5 信濃の国③
「ま、こんな連中もいるよね」
俺の移動は、草原大狼による高速移動がメインだけど、何も考えず人前で乗り続けるほど無神経ではない。ある程度人目を気にして、乗らずにいる場所もある。
それは例えば関所のような場所であり、確実に人が並んでいる場所だ。そんなところに狼に乗って現れれば、いきなり攻撃されたとしても文句は言えないだろう。
そのため、そろそろ関所のはずだからと歩きに切り替えたところ、山賊に襲われたのである。
「彼らは、どうやって私たちに勝つつもりだったのでしょうか?」
山賊に襲われたが、それはあっさりと迎撃できた。
50人近くいた彼らのうち、戦い慣れているのはほんの2~3人。残りは数合わせ、こちらを威圧する案山子のような連中であった。
対するこちらは9人と、数が少なくカモに見えるのかもしれないが、うち6人は剣を所持してちゃんと武装しているし、三人娘も魔法使いを主張するような杖を持たせていた。
防具こそ特に着用せず軽装ではあったが……どう考えても、襲うべき相手とは見えないはずである。
「ここで考えてもしょうがないよ。起きた事実は事実と受け止め、とりあえず先に進むよ」
俺は襲ってきた50人のうち比較的損傷が少ない物を10人分選んで、死体を街道の脇に捨て置き、その上に軽く土をかぶせておいた。
残りはカード化して回収だ。
戦利品の回収なんかも行うべきかもしれないが、そこは考えない。手間のわりに得る物が少ないので。
襲ってきた連中は、何処か近くの村人が副業でやってたんだろうな。
老若男女、10代半ばの若造から50代ぐらいの白髪頭まで幅広い世代が混じっていたし。体も細いのが多かったし。
もしかしたら、難民関連で飢えた村が仕方なくやっていたのかもね。
途中で立ち寄らなかったのでどこの村人かは分からないけど。
明らかに危険そうな俺たちに突撃するぐらいなら、土下座でもして金の無心をした方が、よっぽど効率が良いだろうに。
強そうな他人を見た時、殺す事と頭を下げる事の、どっちが難しいんだろうな?
「そうか? うむ、分かった。確認しておこう」
関所に着いたら、山賊が出た事を報告した。
規模も含め、正確な報告をしていく。
残した死体の数と出た数が一致しないのは、相手が逃げ出したからだと説明。
何人かを殺し、手傷を負わせたら逃げ出したのだと嘘を混ぜたが。
その後、誰かが襲われても寝ざめが悪いので、実際は皆殺しであるが、そこまでは言わない。いちいち言う必要はない。
アジトとか探してもいないからね。生き残りがいても不思議じゃないよ。
「それにしても、なんで武装した集団を襲いますかね?」
「……はあ。それは、小柄な方が多いからでは?」
話を終えた後、少し愚痴が出てしまった。
出国手続きをしていた職員さんは、その愚痴に対して、パッと思い付いたであろう意見を口にした。
言われ、俺はみんなを見る。
俺と終はそこそこの身長で、いい体格をしている。
しかし三人娘、魔剣部隊はゴブニュート。小柄で、遠目には小中学生と見えなくもない。
「なるほど。確かに」
「いえいえ! ただの思い付きですよ!?」
言われると、ストンと腑に落ちた。
なら、襲われることもあるよね。
水無瀬少年も実年齢より幼い雰囲気があるし、次は体格がいい護衛が必要になりそうだなぁ。