16-3 信濃の国①
美濃の国から尾張の国へ。
尾張の国から三河の国へ。
そうやって移動しようとしたら、尾張と三河の国境で足止めを食らった。
「尾張者は通さん!」
「おや、尾張者じゃないんだよ。美濃の国から尾張を経由してきたんだ。ほら、その証書だよ」
「信用できん! 美濃の国から入り直せ!」
つい最近、1年ぐらい前に戦争をしていた国の移動という事で、制限が課せられていた。
美濃と尾張の国境を超えて移動するときには詰め所でその時の記録を取られるようになっているのだが、そこで取られた記録、証書を見せた所で信用されないほど厳しい取り締まりが行われていた。
通れるのは一部の商人だけらしく、ただの旅人として移動していた俺は駄目らしい。
仕方が無いので、言われた通り美濃の国に戻り、可児、土岐、瑞浪、恵那、中津川を経由し、長野県側へと大回りした。
尾張と三河は行かない方が無難そうなので、長野から山梨、東京方面に抜ける方が堅実じゃないかな。
長野県は信濃の国である。
俺が使おうとしているのは阿智村から飯田市、伊奈市、諏訪市、茅野市を経由して山梨方面に行くルートだった。
高速道路が通っていたルートで、一部は通りにくい場所もあるが、それでも過去の道路は一つの指針になる。
「流石信濃の国。蕎麦が美味い」
「……蕎麦の実そのものは、村の物の方が上のはずです。なのに、蕎麦にするとこちらの方が上。水と、打ち方でしょうか?」
「あと蕎麦ツユも、だな」
地方グルメという事で、信濃の国で盛んに栽培されている蕎麦、その打ちたてを食べることにした。
信濃の蕎麦は香りが強く、口に入れた時の感触もいい。
ここの蕎麦は十割蕎麦で、小麦粉は一切使っておらず、ボソボソとした触感になりやすいはずなんだけど、そんな事は無い。するっとしていて、夏の暑い時期に食べるのに向いている。
「いえ、違う。蕎麦は秋に収穫するのが普通ですよね。これは夏蕎麦で、一番味が悪くなったもののはず。なのに、何故?」
俺と夏鈴はこの蕎麦の話で盛り上がるが、蕎麦は無限にあるわけではなく、胃袋だって有限だ。
ここで蕎麦の実を少し購入して、あとはお代わりのフリをしてこっそり蕎麦そのものもカード化。あとで楽しめるようにした。
今まであんまり考えていなかったけど、外で技能実習とか、学びに向かわせるのもいいかもしれない。
村の中でも試行錯誤しているけど、既にあるものは学んで覚える方が早いし、確実だ。
ここの蕎麦屋、お金を出したら弟子を取ってくれないかな?
蕎麦は村の主産業の一つだし、覚えることは絶対に無駄にならない。
ちょっと頼み込んでみるか。