15-25 さよならの決意
結局、俺は人里で暮らすのに向いていないのだろう。
ならば村に完全に引きこもってしまおうと考えたが、一つだけそれをしてはいけない理由が残っている。
水無瀬少年だ。
あの子との約束で、俺は仙台まで連れて行こうと考えている。
それはまだ先の話ではあるが、完全に引きこもってしまっては約束破りになってしまう。
引きこもりになるのは、この約束を果たしてからで良いだろう。
その後のことは、その時になってから考えよう。
自分がそんな駄目な奴だと受け入れてしまうと、意外なことに、心が軽くなった。
自分は社会性のあるまともな人間だと気を張っていたのだが、それはずいぶんストレスのかかる事だった様だ。
能力的・技術的に出来なくはないが、精神的な物まで含めて考えると、やらない方が良さそうと。そういう事らしい。
それで生活していけないのなら我慢し続けなければいけなかったが、そうしなくても俺は生きていける。
元々、外の世界に出たのは、足りない物があったのと、村を守るために周辺の情勢を知るためだった。
足りないものはもう特に無いし、いざとなれば大体は自作できるだろう。それが出来ないとしたら、外に出ていてもきっとなんともならない。
情報の方は、ニノマエが軌道に乗っているし、ファーストという新しい伝手も作った。下忍衆やガードナーもいるし、そこからでも情報は入ってくる。
外に行かねばならない理由は、もう無い。
一点。一点だけ、自分の情けなさが際立つことがある。
神戸町の皆と紡いだ縁だ。
そこから目を逸らすことは、どうしても出来なかった。
俺は署長さんとの関係が壊れたことで、怖くなってしまったのだ。
神戸町の皆は、俺が反撃とはいえ、多くの人を殺していたと知った時にどんな反応をするだろうか、と。
たぶん、ほとんどの人から手の平を返されるだろう。
冷静に考えれば、そんな事は当たり前だった。明確に攻めてくる敵ではあったが、そんな事は関係ないのだ。
絞めた猪を食べるのは大丈夫でも、自分で猪を絞められない人がいるのと同じで、敵から身を守ってくれる人であろうと、人殺しは怖い。そう思われてしまう。
記憶の片隅に残っている創作物語なんかでは、ガンガン人殺しをしている主人公でも、誰も何も気にせず付き合いを続けているから俺までそうだと同一視してしまっていた。
皆とは、綺麗な記憶のまま、別れを告げたいと思ってしまった。
人を殺さないようにという署長さんの忠告は、俺がそういった、危険視される立場に落ちないようにという願いも込められていたのだろう。
その願いを無視して、より上手く立ち回れなかった段階で、俺に社交性は無くなっていたのだ。
どうすれば良かったのかは分からない。だが、やったことは“人の中で生きていくのならば”やってはいけないことだった。
やったことはなかったことに出来ない。
願わくば、皆にはいつか笑顔で別れを告げられます様に。