1-23 ゴブニュート
ゴブリンの集落をつぶしたことで、俺は大量の経験値を獲得したらしい。
多くのカードがレベル10や16に達しており、進化の準備を終えていた。
やったことは虐殺で戦闘でもないのにカードが大量の経験値を得たということは、命を奪うことが経験値を得るうえで高効率であるということかもしれない。
あまり、気分のいい話ではない。
ただ、結果としてレベルが上がっている、そのこと自体は俺にとって不利な話でもないのだけど。
そんなわけで、翌日は成長の処理をすることにした。
カードや物資が多くなったので、整理する意味合いが強い。
まず、我らがメインウェポン・夏鈴。
彼女はレベル16に達していなかったので、どうしようかと思っていると、『デミゴブリン』のカードが合成できることに気が付いた。
彼女だけでなく、ゴブリン系のカードは一通りデミゴブリンと合成可能らしい。
いきなり主力に足すのは怖いので、他のカードで試してみる。
『ゴブリン』+『デミゴブリン』=『ゴブニュート』
『ゴブニュート』:モンスター:☆☆☆:やや小:1日
ゴブニュートを1体召喚する。この魔物はゴブリンであり、人間である。人と魔の、両方の特性を併せ持つ。
特大の爆弾が炸裂した。
ゴブリンと人間は交配してもデミゴブリンになるだけ。
なのに、こいつはゴブリンであり、人間であるという。
ゴブニュート、ドラゴニュートのような造語かね。人のようなドラゴンならぬ、人のようなゴブリン。
ライオンとトラを掛け合わせライガーにしても雄は1代限りで雌が2代までと言うけど、これは完全に種として安定している。次世代を作れそうな連中だ。
なにより、外見が完全に人間のそれだ。髪があるし、肌の色も人間のものと同じだ。
いや、耳が長いのと小柄なのと、ゴブリンの特徴も残っている。なんとなく、目も大きくてくりくりした感じで作り物臭い。
いや、この子はまだ子供で、小柄なのは今だけ、これから大きくなるかもしれないのか? 栄養状態で体の成長はずいぶん変わると言うし。
うん。よく分からない。
「あー、う?」
「喋った? ゴブリンの発声と違う……」
召喚してみたゴブニュートは、ゴブリンやデミゴブリンの「キー」という、サルのような鳴き声とは違う、人間のような声を出した。
声帯も人間に近付いている?
教えれば、話をできるかもしれない。
猿はどんなに頑張っても人と話すことができないが、ゴブニュートは人の言葉を話せるようになるかもしれなかった。
これは、ゴブリンへの評価が大きく変わる。
俺の視線が夏鈴に向く。
夏鈴をゴブニュートにすれば……夏鈴が喋れるようになる?
あと、人間のような姿になる?
思わずツバを飲み込んだ。喉が鳴る。
やって、しまうか。
デミゴブリンのストックは、あと3枚あった。
パーティ化してあるデミゴブリン系のカードも2枚。
試して、みようか?
心臓が物凄くうるさくなった。