15-23 斉藤 龍一郎③
俺と署長さんが決別してから数日後。
神戸町の喫茶店で、なぜか俺は国主とサシで向かい合っていた。
「美味しいね。良いミルクを使っている」
「なんでここまでするんですかね? 仕事は大丈夫なんですか?」
「うん? 仕事は大丈夫だよ。だからここに居ても部下が来ない。時間の捻出はね、要領よくやれば何とかなるものさ。
そしてここまでする理由は簡単だ。召喚状が使えないから、ここまでしないと創君とは話が出来ないからだね」
国主はニコニコと人好きのする笑顔を俺に向けた。
その笑顔を見て、俺はため息を吐く。
「質問が悪かったみたいですね。俺と何の話をしたいんですか?」
「そりゃぁ勿論、我妻の話さ。いや、我妻たちの話かな?」
今回は非公式という事で、砕けた話し方を求められた。
仕方ないので、素で喋っている。
それにしても、我妻の話ね。
あいつ、何も喋らないんだよなー。
状況を確認してみたら、そう言って下忍衆が申し訳なさそうに謝っていた。
「まず、創君に掛けた疑いは晴れたよ。我妻とは完全に関係ないと結論付けられた」
「今更ですね。前回はまだ疑っていたんですか?」
「そりゃぁ勿論! あれだけ疑わしい行動をとっていれば、君がアレを逃がしたと思ってもしょうがないと思うね」
なお、周囲に客はいない。貸し切りである。目の前の男が一日分の売り上げの倍を渡し、後は権力でどうにかしたのだ。
疑わしい行動と言われ俺は首をかしげたが、国主は苦笑いしつつ、説明してくれた。
薬に詳しく、それを商売に出来る知識。
大規模に人を動かす資金力。
国主との対面で見せた振る舞い。
通常、どれも流民には無いものだ。この段階でもの凄く怪しい。
そして、召喚状で呼ばれた時に見せた、俺の表情の動き。
「聞かれたくないことがあります、隠し事をしています、顔にそう書いてあったよ」
「うわぁ」
にっこり笑ってそう言われれば、もはや誤魔化しようが無い。
俺を揺さぶるための、ブラフという感じではなく、本当に確信を持ってこの会話をしている様子だ。
隠し事をしていたことだけは、両手を挙げて認めよう。
「ま、あの時の俺が隠し事をしていたのは事実です。何を隠していたかは言うつもりがありませんけど」
「残念だ。しかし、私はそこを聞きたいんだよ」
国主は笑顔のまま、すっと目を細めた。それだけで少し威圧された気がする。
表情の使い方が上手いな。どの表情が相手に対しどんな効果を持っているか、完全に理解して使いこなしてるよ。
何とかやり過ごしたい所ではあるが、話題がこのままであれば、いずれ吐いてしまうだろうね。我妻を拘束していることを。
話題を逸らし回避したい所ではあるが……何かいい手は無いものかな?