15-20 平和?
署長さんとは平行線。
残念ながら、俺は自衛のために戦うし、署長さんは法に従い逮捕をする。
意見が交わる事は無い。
ただ、平行線なんだよ。俺たちは。
ぶつかり合い、戦うまではいかないので、今のところは共存可能。
できればこちらの事情を理解してほしいとは思うけど、それをしたら署長さんじゃいられなくなりそうだしね。
「そのまま」というのが俺たちにとってちょうどいい距離感なのかもしれない。
嫌がらせを実行するのは下っ端の中でも特に下の方の連中になる。
で、そいつら下っ端どもを雇っているのもやっぱり下っ端で、こいつらは中間業者に過ぎない。
その中間業者の数が物理的に少なくなると、本当の悪党、裏で命令している奴は自分の手駒を使うしかなくなる。
諦めてくれればそれでいいんだけどね。頭のいい奴とは諦めることを知らない馬鹿の方が多いのだ。
頭の良い馬鹿は「自分は頭がいいから、必ず成功する」って信じて動く。
もしも下っ端がいなくなった時点で退く、損切をするような奴は、最初にちょっと動いてすぐに引くか、そもそも他の奴のお手並み拝見と手を出さない。
俺について調べれば他の連中に脅されて簡単に従うような人間像は出て来ないだろうから、手を出している時点で頭の出来はお察しである。
俺は一度、大垣で暴れまわっている乱暴者なのだ。
暴力で対抗する事は不可能ではないけど、とても難しいともっぱらの噂である。
嫌がらせを仕掛けるといった行動への報復がどんなものになるか、想像できないのかなって思う訳だ。
逆に、頭の良い連中は面倒くさい。
法律を盾に迫ってくるわけだ。
中には勘違いした馬鹿も混じっているけど。
「――と、いう訳で、アンタのやってる事には税金がかかるんだよねぇ。ちゃぁんと払ってないの? そりゃあいけねぇなぁ」
ねちっこいインテリヤクザモドキが俺に絡んできた。
俺の持ち込む薬品類に対し、税金を支払わねばいけないと、言いがかりを言ってきたのだ。
俺の持ち込む薬品類は、署長さんへの納品用である。警察からの依頼品であるし、持ち込み方もちゃんとレクチャーを受けている。
つまり合法であるし、持ち込みに税金はかからない。
そのまま警察に連れて行き、そのまま逮捕してもらった。
途中で状況を理解し逃げようとしたので、俺がインテリヤクザモドキを拘束してみたよ。
「あ、創さんですか……」
「はい。こんにちは」
俺がヤクザを警察に連れて行くと、受付の婦警さんが嫌そうな顔をした。
何度もお世話になっているので、「またか」と思われたのだ。
で、ヤクザを引き渡し、監視の人員を付ける。
しばらくすると、ヤクザの身元引受人がやって来た。
その身元引受人がヤクザへの依頼者に繋がる関係者なので、そっちの後を追い、背後にいる何者かを探っているのだ。
ヤクザはヤクザで始末するけど、依頼者も始末したいので、こうやって警察を利用させてもらっていた。
後を付けた先の店を覚え、軽く証拠を探し、そのまま襲撃。
いくつかの店を潰せば、その店の繫がりから上が見えてくる。
どこの誰が依頼者か突き止めたら、そこも襲撃。最終的には大垣市の議員が2人ほど消えた。
大垣の人口が目に見えて減っていった気がするよ。
大悪党は動かす人の数も多いから、その分被害も拡大する。俺が頑張った結果、小数点の要らない%単位で人口が減少した。
署長さんはこれを予測していたのだ。だから殺しに反対していたのだ。
悪党でも、大垣市の住人には間違いない。死んでほしいと思わないのが人情だ。
出来れば更生してほしい、真面目に生きて欲しいと思うわけだ。
そうじゃないと、国力が減るからね。人口は国の力なのだ。
そもそも、刑法とは「罪に対する罰はここまでで抑えるように」と、リンチで人が死ぬのを防ぐ狙いもある。
俺の報復は、一般的にはやり過ぎなのだ。
ただし、狙った通りの効果はあった。
それだけやると、さすがの馬鹿も絡んでこない。関係者に手を出さない。
迂闊に俺に手を出せば死ぬと、ようやく周知されたのだ。
春が来て、俺の周囲はちょっとだけ平和になった。