15-13 まだ見えぬ「敵」
予測していた事の一つ、黒幕の存在。
それが明らかになったという事で、俺の気分は凄く下がった。
暗殺者の頭領などという存在が、まだ敵対していない俺を狙って、あそこまで派手に動いたのだから黒幕は居ると思っていた。
付け加えると、細かい理由、証拠の類を国主の側から示されなかったのが大きい。
信用できるのか、その一点に尽きる。
可能性は低いとみんな言っていたが、国主が犯人という説も頭の片隅に残っていたからね。人の話を鵜呑みにはできない。
その後も少々のやり取りを行い、用事が終わった俺は国主のもとを去って行った。
今回の報酬として、いくばかの金銭といくつかの権利についてまとめた書類を貰って。
その権利の一つが、国主からの召喚状に応じなくても良いというものなので、これで国主が代替わりしても俺には無視する正当な権利が与えられたわけだ。これはかなり大きいと思うよ。
この手の権利を貰っても、代替わりで逃げられるような不完全なものだと意味が無かったからね。
当代の美濃の国の国主の名で召喚状に応じなくとも良いと認めてもらったのだから、もしも次代の美濃の国の国主がこの権利を無視すると言うなら、それは美濃の国の国主の権利を引き継げないという事になる。
無視した場合、この国は歴史ある美濃の国ではなく、国交の無い新興国となる。
この手の権利と義務はセットで引き継ぐしかなく、無視しようものなら周辺各国がそこを上手く突いてくるだろう、大きな弱点となる。
現代日本に某半島国家が「以前の大統領が結んだ条約など無効だ! 奴は犯罪者なのだから、そんな奴が結んだ条約など守る理由は無い」と言っていたが、それは違う。
たとえどんな大統領だろうと、条約として結んでしまえばそれは正式に効力を発揮する。犯罪者の大統領だったからとか、そんなのは関係ないのだ。
一時的にでも、そんな奴を大統領に据えたのは国民なのだから、その責任は国が負わねばならない。
そして義務だけを一方的に破棄する事はできず、義務から目を逸らしたければ、それ以前に日本が支払った賠償金なども返済する必要がある。それが国際ルールだ。
終わった話は良いとして、貰った情報から今後の対応を考えていく必要がある。
まず、まだ見ぬ「敵」がいるという事。
俺を使ってゲームをしていたというなら、今後も何か仕掛けてくる可能性がある。
こいつを見つけ出すのに、「どうやって?」と手段を考えてみたが、今のところ、俺の持つ手掛かりは我妻一人である。
こいつから情報を抜き出さない事には、話にならない。
で、襲われるという前提で物を考えると、護衛は増やさないと拙いよな。
現状は戦闘部隊二つと三人娘、あとは終が俺の身を守っている。
移動中には、これにオーディンら大狼が加わる。
結構どころかかなりの戦力と思うけど、普段から連れ回しているので、敵には想定範囲内と対策を考えられることになりかねない。
敵に知られていない、状況をひっくり返す手段が必要だ。
追加で召喚をすれば大体の危機は乗り越えられるが、それを言ってはいけない。カードを使った召喚は俺の秘匿事項であり、可能な限り伏せておきたいのだ。
追加の召喚に頼らない、今のみんなが対処できない敵をどうにかできる、そんな都合のいい力を手に入れておきたい。