15-12 斉藤 龍一郎②
足取りを追っている。
それはまだ奴の行方が分からないという事であり、俺が捕まえているという情報が無いことを意味する。
ひとまず安心して良さそうだ。
それはそれとして、俺は奴のことなど知らないという立場を貫かねばならない。
「俺は岐阜市に立ち寄らない様にしていたので、我妻に関して知っていることはあまりありませんよ。
まぁ、外から人を送り込み、情報戦を仕掛けてはいましたが」
「それはこちらでも把握している。ずいぶん派手に動いたそうだからね。情報の収集と拡散だったか」
「ええ。目立たせることで相手の動きを誘発しようと思いましたから」
なので、自分がやっていたことをバラし、喧嘩を売ったことを伝える。
あと、2人ほど人を確保したのも教えておくか。
「おかげで暗殺者を十数人送り込まれましたね。ま、迎撃してやりましたが。最初から想定していたので、楽なものでしたよ。
その時に2人ほど捕虜を確保したので、いずれお返ししようと思うのですが。彼らは薬物を使われていたので、しばらくは療養生活ですけどね。
本人らから、自分の意思でこんな事をしたのではないという証言も貰っています。身体が治り次第、お届けしますよ」
「それは、本当かい? たしかに、警官がそれぐらいいなくなっていたという話だったが」
「はい。薬物による調教で、暗殺者に仕立て上げられていました」
「そうか、そうか……」
俺が警官が暗殺者に仕立て上げられていた話をすると、国主はなぜか疲れた様な顔をして、椅子に背中を預けた。
何か思う所があったらしい。
そうしていくつかの捜査情報、こちらに伝えても構わない様なものを教えて貰う。
さすがに彼らの知る全てを開示して貰えるわけでは無い。立場的に俺は関係者では無いので、外に漏らせない情報までは貰えない。
ただ、爆弾級の極秘情報を一つ、教えてもらえた。
「しかし問題は、君がなぜ我妻に狙われていたのかという話なんだよ」
「単純に、錬金術士が欲しかっただけでは? お……私は、かなり有名なようですから」
「普通に喋って貰っても構わないよ。ここに居る者たちは、私が信用するものだけだからね。
それと、狙われていた理由は、君が錬金術士というものと全く違うというのが我々の推測だ。もしも錬金術士としての君を手に入れたければ、もっと他の方法を先に試していただろうからね。
そう判断した細かい理由は他にもあるが、何かのゲームの様なものに巻き込まれたというのが、一番の原因では無いかと考えている」
む?
ゲーム?
言われてぱっと思い付いたのが、日本で有名な某ロワイヤルな映画だ。
クローズドサークルで行われる殺し合い。
生存者が1人になるまで行われるそれは、国の主催する娯楽であった。
他にも特定ミッションを達成する様求めてくるトランプを題材にしたようなゲームや、SNSをモチーフにしたものなども存在する。
総じて言えることは、どれもこれも悪趣味であるという点だ。
少なくとも、そういった事に関わる人間とは仲良く出来ないだろう。
「えーと。そうなると、我妻は誰かの命令で動いていて、俺を捕らえることができるかどうかを賭の対象にされていた、ということですか?」
「飲み込みが早いな。ああ、その通りだ」
「我妻が姿を消したのは、何らかの条件を満たせなかったからか、条件を満たしてしまい消されたとか?」
「……それは、別の理由では無いかと考えているのだがね」
かなり酷い話だな。
これは、警戒が必要だ。
それと、国主は俺に対し、ある程度だが疑いの目を向けているのに気が付けた。
こっちが隠し事をしているのはバレているみたいだな。
何かを隠している、しかし敵では無い、そんな扱いだ。
やっぱり権力者は面倒くさい。
間違っていないけど、敵でも無いけど、共闘だってしないし、する気が無いので、今後は放っておいて欲しいね。
色々と情報を貰ったけど、やっぱり権力者とは距離を置きたいと思ったよ。