15-8 一刻道①
「いい加減にせんか、バカモン!!」
煽られブチ切れた一般隊員らしき強面。
それを止めようと取り押さえるその仲間。
そして、状況を悪化させてやろうと煽る俺。
なかなかいい感じに、こちらの望んだ形になるよう場が混沌となる。
このままいけば、今回の話もお流れとなってもしょうがないと言える様になるだろう。
そう思っていたのだが、強面の中でも最年長っぽい角刈り男が、暴れていた奴――強面軍団の中では若手である――に雷を落とした。
「軽く煽られたぐらいで我を忘れるとは、なんたる無様! まんまと相手の術中に落ちてしまったと分からんのか!!
小僧、貴様は後で鍛え直してやるから覚悟しておけ!」
「ひっ! 申し訳ありません!!」
この老兵っぽい強面が雷を落としたことで、場が沈静化してしまった。
残念だ。これで俺の予定が狂ってしまった。ここからの巻き返しは不可能だろう。
また来月。
そうやって話をまとめようとしたかった俺だが、上手く事を運べなかったようである。
「其の方が創であるな? それがしは『一刻道』という、美濃の国の軍において十人隊長の地位にある。よしなに頼む」
老兵、一刻道と名乗った人物は十人隊長、この場に居るのは十人以上なので、ナンバー2かそこらの人らしいね。
散々煽った俺に対し、負の感情を感じさせない声色で挨拶をしてきた。
「創と言います。流民の……まぁ、錬金術士というか、薬師みたいなものですね。よろしく御願いします」
相手が丁寧に挨拶してきたので、こちらもちゃんと挨拶を返す。
こういった場で、いつまでも子供のように煽り続けるのは得策では無い。相手がちゃんとするならこちらもちゃんとするよと、そういったパフォーマンスも大事だ。
もう煽った所で意味が無いから、後は普通に話せばいいだろう。煽るのも疲れるからね。頭を使うから。
「して、先ほどの話であるが、こちらも子供の使いではない。また今度、と言われても退く気は無いのである。
よって、こちらにはある程度譲歩をする用意があるので、条件のすり合わせをしたい」
「建設的な話し合いは歓迎ですよ。ですが、貴方がたには信用がない。そこはどうするおつもりかな?
それと、貴方の立場はこの場においてどのようなものかをお聞かせ願いたい。貴方と話をまとめた所で、実は責任者では無かったというオチは勘弁して貰いたいのでね」
場を仕切り直し、ちゃんとした話し合いをしようという事で、強面軍団は先にお帰り願った。
そうして、この一刻道氏と腰を落ち着けて話し合う場を、警察署内に設けて貰った。署長さん、ありがとうございます。
「それがしは今回の交渉において全権を任されている。証人はそこの署長であるな。彼の者が保証する故、信じて貰おう」
「ま、そこが最低条件でしょうね」
この角刈り老兵の一刻道氏は、部隊内の最高権力者でこそなかったが、それでも交渉においては全権委任者であったらしい。
立会人として同席している署長さんに視線を向けると、無言で頷かれた。信用していいらしい。
言葉は悪いが、目の前の人は全く信用できない。
阿呆どもの命令に従って馬鹿なことをしでかした実行犯なので、信用する理由がないのだ。俺との約束よりも上司の命令を優先するだろうから。
だから一刻道氏は、署長さんを立会人として引き合いに出すことで俺の信用を得たわけだ。
俺が信用する署長さんという後ろ盾を信じろと、そういう流れだ。
とりあえず、これで話し合いをする最低限の条件は整った。
ここから先は、より気を抜けなくなるね。