15-7 強面を煽る
召喚状を使って俺を呼び寄せた理由。
「『我妻正義の事で話がしたい』ねぇ。誰、それ?」
岐阜市の元署長、中身は暗殺者の頭領だった、我妻の事で話がしたいというものだった。
なかなか面倒な書き方をされたので、思いっきりとぼけて見せることにした。
俺が奴の名前を知っていても不思議ではないが、知らなくてもおかしくはない。世の中にはノンポリ、政治に対しまったく無関心な人間が多いのだから。
と言うか、イメージ的には警視庁の長官とかの名前を知っているかどうかと聞かれたようなもので、俺の中では知らない方が普通なのだ。
流石に防衛大臣の名前ぐらいは覚えていたけどね。奴のネームバリューはそこまでではないと思う。
「不祥事を起こし行方不明になった、岐阜市の前警察署長ですよ。前に教えてあげたではないですか。
まぁ、3ヶ月近く前の話ですから、覚えていないのもしょうがないでしょうが」
「ああ、そう言えばそうだった。それで記憶に引っ掛かったのか」
ここですかさず署長さんからフォローが入った。
俺の態度が不審だったとしても、それは記憶に引っ掛かったから。アドリブでそう言えるようにしてくれたのだ。
とりあえず、仕込みの方はこれでいいか。
では、召喚状に応じるかどうかだけど。
「前回、俺は理由も分からずに応じる気は無いって言っていたからね。理由を書かれたのに、やっぱり応じないっていうのは良くないよね」
「では、今回は?」
「応じようかな。そっちにいる無駄な連中を寄こした分の苦情を言ってやりたいし。まずはその件で頭を下げさせるところから始めるつもりで、この召喚には応じるよ」
召喚に応じ、受け入れるという事にする。
脅されて来たという悪評対策に、この件で最初に頭を下げさせると断言する。
強面連中の俺を睨み付けてくる視線がさらに強くなったようだが、これを譲るつもりは無い。誰かに命令されて兵隊さんが馬鹿な事をやったのなら、命令した奴が頭を下げる事は当然なのだ。やった兵士に責任を問う事はしない。
特に、連中は現場を知っている署長さんの忠告を無視してこんな馬鹿をしたのだから。
「公衆の面前で土下座でもさせようかね? 暴力で人を脅しつけようとしたんだ。やったことを考えれば、それぐらいはしてもらわないと。
ああ、そうだ。こんな事をするようなのと一人で会うなんて怖い事はできないね! どうせだから、仲間たちを連れて行かないと! そこにいる連中に対抗できる戦力を集めないといけないね!!」
本気でそこまでする気は無いが、それぐらいはさせるという意気込みで対談に臨んでおこう。
真面目な話、そんな意図は無かったと言われたら、その場で話し合いは終了だ。最低でも謝罪の言葉を口にして、頭を下げさせる。
あと、これで護衛を連れ歩く理由ができたな。
普段はオーディンとか街中を歩かせないようにしているが、岐阜市には草原大狼の団体さん付きで向かう事にしよう。
フル装備で戦える仲間も20人ぐらいは傍に置いて、バックアップの戦闘要員も目に見えるのと見えないのを置いて……ゴブニュートの部隊と終は動かすかな。おまけで雇えそうなのがいるなら、大垣市の傭兵も雇えるだけ雇って連れて行こう。
相手が戦闘要員を近くに置くかもしれないなら、それぐらいの用心は必要だ。いや、本当に。
信用できないからしょうがないよね。
「という訳で、戦力をかき集めて、安全をある程度確保できたと思えるまで待ってもらいます。
最低でも、そこにいる連中の倍ぐらいの傭兵を雇い終わるまでお待ちください。
ああ、資金が足りるかな? あとで国主に払わせるのは当然だけど、先に用立てる分は俺が用意しないといけないし。こちらも手持ちが足りませんし、金策が必要な話になりましたね。
召喚に応じるのは半年ぐらい先になるかも?」
「ふざけるな! 何様のつもりだ!! さっさと召喚に応じるのが貴様らの義務だろうが!!」
「自身の安全を最優先する、小心者で小物様ですが何か? それと、余計な事をした馬鹿と、忠告を無視した愚か者が酷い目に遭うのは、世の常ですよ」
さすがにここまでさせるとなると黙っていられなかったのだろう。
強面軍団の一人が激昂して叫び出した。
なので、俺はさらに煽ろうと小馬鹿にしてみせる。可哀そうなものを見る目と冷めた口調で淡々と煽った。
「よせ! 止めないか!」
「糞が! 放せ! こいつはここで一発ぶん殴る!!」
「おお、怖い。やっぱり戦力の用意は必要ですねぇ」
煽られたことで俺に殴り掛かろうとする強面一般兵。
仲間たちに捉まれ、それでも俺を殴ろうと暴れている。だからこそ、こちらに都合が良かったりする。これでより大きな譲歩が望めるんだから。
もしかしたら、ここまでが誰かのシナリオって説もあるけどね。
なんか上手く事が運びすぎてる気がする。
ここまで単純な連中ばかりだと、逆に疑いたくなるよね。