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15-5 幕裏:ニノマエの休憩室にて

 これはニノマエの休憩室での出来事である。



「ほほう。それなら俺たちが協力できるかもしれないな。ここに来るまで、何年も旅を続けてきたからな。見知らぬ土地での立ち回りやら何やらには自信がある」

「俺らも、一つの区切りがついたところだからなぁ。仙台目指す旅ってのも良いかもしれねぇ」

「こうやって知り合ったのも何かの縁だ。どうだ? 春になったら俺らと仙台を目指すってのは」


 元モヒカン・今スキンヘッドの三人組、イシマツ、サブ、キチロー。

 彼らは同じ時間に休憩をしていた水無瀬少年と、同じ卓を囲んでいた。

 ドリンクを片手に、雑談をしている。


 水無瀬少年は自分の話、いつか仙台に行くという目標を彼らに話したようだ。

 そしてその話は仲間の最期を知るために旅に出た三人組の心を打ち、彼らは“無償での”協力を約束する。

 アテの無い彼らにとって、仙台への旅は困難であろうと悪い話ではない。一つの選択肢として考慮できることだったのだろう。


 実際に、彼ら三人が心から協力をするのであれば、仙台行きは可能だろう。

 一人では無謀としか言いようのない旅路だが、四人であれば創の協力は要らない。あったら助かるのは間違いないが、必要と言えるものではなくなるのだ。



 この申し出に対し、水無瀬少年は苦笑いで首を横に振った。


「ありがとうございます。

 でも、これは自分でやると決めて、自分でやらなきゃいけない事だと思うんです。だから、ごめんなさい。僕は僕の力で、仙台まで行く準備をします」


 少年は三人の協力を拒んだのだ。


 もしもこれが有償、対価を求めての事であれば水無瀬少年は首を縦に振ったかもしれない。

 しかし、彼らは無償での協力を提案してしまった。それは水無瀬少年の、男のプライドに泥を塗る事になってしまったのだ。ここで首を縦に振るわけにはいかなかった。


 一応、先に話をしていた創への配慮もあった。

 先約優先の認識で、既に取り付けた約束を守ろうとしたというのもある。





 少年は自分なりに男のプライドを見せた。

 ならばこれ以上のお節介は自分の男を下げる事になる。

 そう感じ取ったイシマツらスキンヘッドたちは、髪の無い頭に手をやって己の不明を恥じ、少年の心意気を称賛する。


「すまねぇな。おっさんらが勝手に気をまわしちまったか。

 ま、応援してるからよ、相談したい事が何かあったら気楽に言ってくれや。俺たちが旅のベテランだってのは嘘じゃねぇ。誰に頼むかは知らねぇが、知っておいて損の無い知識ってのもある。

 俺らがここに居るのはそんなに長ぇ話じゃねぇが、居る間に教えられそうなことは教えてやるよ」


 少年の見せたプライドは、「仙台に行く」という目標と、その手段の合理性を考えれば馬鹿な行動でしかない。

 お金を貯めて創に連れて行ってもらうよりも、もっと早く仙台にたどり着くことができたはずだ。


 だが、プライドは時に合理性を超えてしまう。

 そもそも、仙台行きだって合理性という意味では無価値にすぎない。

 それが分かる男たちは笑い合って、手を取り合うのではなくハイタッチひとつですれ違う。


 全ては心の問題なのだ。

 心に納得を得られるように生きなければ、幸せなどどこにも存在しないのだ。





 一人と三人の道はここで(たが)えたが、彼らは確かに仲間だった。


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