15-4 店員雇用
少しだけ迷った俺だが、「事前に毒草と油を撒き、火計で殺した」とだけ伝えてみた。
それ以降の話、死体については知らないと答えておいた。
開示できる情報としては、このあたりが妥当だろう。
そもそもの話、彼らは話を聞きたいと俺に頭を下げはしたが、金銭の類を渡してきたりはしなかった。
つまり、こうやってタダで話をするだけでも慈善活動であり、俺には何の利益も無いのだ。
ならばある程度情報を秘匿していようが、誰からも文句を言われる筋合いが無いのである。
三人組は死体について知らないと言った俺に不信感、虚偽の臭いをかぎ取る程度の勘の良さを見せたものの、特に深く突っ込んでくる事は無かった。
こちらに払う金銭の持ち合わせが無いんだろうね。そういった謝礼を払えない以上、無理を通すことができないと分かっているんだ。
古巣は非常識でマイルールなヤクザ屋さんだが、長い旅をしてきたので、相応に常識があるようで何より。
面倒事や厄介事は少ない方が良いのです。
そんな事があって、数日後。
いつものようにニノマエの店舗に足を運ぶと。
「いらっしゃいませ!」
「そうきたか」
元堀井組の三人が、ニノマエの店員をしていた。
スキンヘッドが真新しい制服に身を包み、笑顔で接客をしている。
……愛嬌は、ある。
いかにもヤクザといった雰囲気は無く、チンピラ臭さえ感じさせず、ごく普通の、頭が明るい男衆といった働きぶりだ。
そう言えば、長旅であれば道中で路銀ぐらい稼ぐよな。そこで鍛えられたんだろう、たぶん。
これで働きが悪ければ難癖の一つでも付けたかもしれないが、真面目に働いているのに何か言うのはパワハラだろう。
俺は言いたい言葉をぐっと飲み込む。
「オーナー? あの三人、雇ったのは何か不味かったですか? 大垣はもう仕事が無いので、冬場は神戸町で働きたいと、そう頭を下げられたから雇ったのですが」
「簡単に言うと、尾張の国の、元ヤクザ。頭を丸めたって事は、もう組とは関係ないと思うけど。断言はできないかな?」
「え?」
「付け加えると、連中のお仲間と盛大に揉めていた事があってね。殺し合いにまで発展した間柄かな」
「えぇっ!? ちょっと、それ、かなり拙いじゃないですか!!」
飲み込んだ矢先ではあったが、店長に三人組の話を振られたので、嘘偽りなく答えておく。
こんな事で嘘は言わない。安全やら何やらに関わる話だし。
「そっちはどう見る?」
ここで俺は、ちょうど近くを通りかかったフリーマンたちを捕まえることができたので、彼らにも話を聞くことにした。
フリーマンらは、元をたどれば堀井組の召喚術士に使役されていた過去がある。大きな被害を出さずに済んだ俺よりも、この三人の方が堀井組関係者に言いたい事はあるだろう。
終も居れば、終にも話を振ったんだがな。
「昔話っすね。こっちから仕掛けたいって事は無いっす」
「ああ。もうどうでもいい。連中が暴れたとしても、俺たちなら簡単に取り押さえられる程度だ。何かしたなら潰すだけだな」
「人様に迷惑さえかけなければ、それでいいんじゃないでしょうか。彼らには、そう言った悪意を感じませんが」
フリーマンらは、「もうわだかまりは無い。雇ったままで特に問題無し。何かあっても対処可能だから」と、彼らの雇用に消極的な賛成意見を出した。
冬でも潤沢な商品在庫を抱えるニノマエは、わりと忙しい。使える人間が増える分には構わないという。
店長も、だから雇ったわけだしね。
「店長」
「そう、ですね。人手が欲しいのは確かですから、このまま雇っておきます」
こうしてスキンヘッドの三人は正式にニノマエの短期労働者になるのだった。