1-21 致死容認
「分からないことがあったら、人に聞きなさい」
悩む俺の頭の中で、誰かがそんな事を言った。
聞くと言っても誰に?
ここには意思の疎通はできても会話不可能なゴブリンたちしかいないのに。
そんな現実逃避をしてから、俺は倒れている3人に目を向けた。
生かすも殺すも本人の意思次第だ。
死にたくなければ生かし、死にたいなら殺す。
責任は全部彼ら自身に押し付け、俺は彼らの意思を尊重したと言って目を背けよう。
その方がきっと、楽だから。
俺は自分が生き残るためにゴブリンを皆殺しにしたけど、そのゴブリンに捕まった人に対して責任を負う必要なんてどこにも無いんだ。
関わったくせに中途半端な事をするな、そんな戯言、知ったことではない。
生きるも死ぬも、本人以外のだれが責任持つというのか。命は己のものであり、その在り方は己自身で決めればいい。周囲はただ、それを手助けするだけだ。
彼らには癒術部隊がヒールを使ったが、体は回復しなかった。
回復するなら、などとも考えたけど、駄目らしい。
今まで試していなかったが、ヒールで治るのは自然回復の範囲。覚えておこう。
多少マシになった状態で、話を聞いてみた。
「殺してくれ」
「誰か……助けて」
「…………」
3人の反応は、見事に分かれた。
男は死を望んだ。女性と違い孕む事こそ無かったが、それでもゴブリン相手に搾取される日々が生きる希望を奪っていた。それに、動かない手足でどうやって生きていけばいいのか分からないので、このまま一思いに殺してもらえるならそれでいいと、生きることを諦めている。
女の一人は死にたくないと言った。ただ、助けて欲しいとは言うものの、俺がやるのは助けることではなく、殺さないことだけだ。その先までは知らない。人里近くまで運ぶけど、それ以上の手助けはしない。情報流出については諦める。それに、だ。彼女は俺のことを認識していないように見えた。俺の情報など、あまり伝わらないだろう。
そして最後の一人は無反応。心が完全に壊れている様子で、何をしても反応しない。まぁ、二人目の彼女もまともな会話ができる状態ではないので、似たようなものと言えば似たようなものか。
2人を殺し、1人はある程度、人里の近くまで運ぶ。
そう決めた。
中途半端な対応だと思うけど、今の俺にはこれが精いっぱいの決断だ。
彼らの生死は彼ら自身の判断に委ねる。
一回そう決めたのだから、その通りにする。ここでブレる様な真似はしない。
殺すのは、俺自身の手ですることにした。
意味など無いが、それを持って誠意を示す。
生きているだけの女性はまだいい。もう人形のようでもあるので、躊躇わずに殺せた。
男性は、この3人の中で唯一まともに話せた人だ。可能なら生きていて欲しいが、それでも――
「少年、ありがとう」
「貴方のことは忘れません」
お互い、名乗っていない。そのままで押し通す。
俺は剣で、彼の首を切った。
コミックのように首を刎ねる、などとはいかない。首の骨で剣は止まってしまった。
それでも首から大量の血が流れ、気道に傷が入ったことで声にならなくなった叫びを上げながら、彼は死んだ。
剣を見ることが無いようにと、彼の顔にかけた布がずれ落ちる。
名前も知らない彼は涙を流していた。
彼が最期に何を考えていたかは知らないが、俺は俺が決めたことを貫いたのだから、後は俺自身の中で今やったことの価値を決めればいい。彼の思いとは関係なく。
そうやって自分の心に決着をつけると、俺は人間もカード化できることに気が付いた。
動物も植物も無機物も魔物も、みんなカード化できるなら、人間だけ例外ってのもおかしな話だ。人間を召喚モンスター扱いできても不思議じゃない。
「こんな墓も、アリなのかね?」
カード化するための枠は、話し合いなどをしている間に回復してきている。枠を理由に諦める必要はない。
『ヒューマン・スレイブ』
俺は殺した2人をカード化し、生かしておいた女性を連れ、廃墟となった集落を後にするのだった。