15-3 今更ながらの来訪者
人生において大きな出来事だったと言っても、“それ”が起きてから何年も経てば記憶も薄れるというものだ。
正直に言ってしまえば、「なぜ今さら」というレベルの話をされたところで、困惑しかない。
彼らがやって来たのは、神戸町にある、ニノマエの店。
いつものように俺が商品補充をおこなった直後の出来事だった。
「もう恨み辛みは言いやせん。俺らの家族がどうなったか。それだけが知りてぇんです」
スキンヘッド三人組。
尾張の国の堀井組の、元構成員。
彼らは俺が行った反撃により家族を失ったのだが、その時の真実を知るために、長い長い旅路を経てここまでやって来た。
残された家族たちに、「彼らは立派に戦った」と報告したいから。
以前に、堀井組と言えば、3年かそこら前に若頭のテルとかいう男が村の方に来ている。終が娘と応対したので、なんとなく覚えている。
手掛かりがほぼ無い状態から頑張った彼らには悪いが、残念な事に堀井組ではすでにケリが付いている類いの話じゃだろうか。
本人たちにしてみれば、何年かけてでも、命をかけてでも知りたい真実なのだろう。
ただ、命を奪った側の俺としてはすでに過去のイベントでしかない。どうやって戦ったか思い出すのも困難な些事でしかなく、温度差が凄い。
行われたのが命のやり取りであっても、その後、何度もそれ以上の戦いを経験したので割とどうでもよくなっている。
はっきり言って、あの時の事は全然気にしていなかったのだ。
強いて言うなら、「大量の『ヒューマン・スレイブ』が手に入ってラッキー」程度の認識となる。わりとすぐに使い切った気もするが。
襲われたから、穏便に済まそうとしても無駄だったから、さっさとケリをつけたって話だった気もするけど。深く印象に残るほどではなかったんだよね。
そういった事情を馬鹿正直に言うほど、さすがに俺も非情ではない。
何とか頑張って記憶を漁る。
あ、思い出した。
当時は手札が足りなかったから、毒で動けなくしつつ、火計で焼いたんだった。
……言っていいのかね?
これはこれで話し難い内容である。
こちらこそ、過去にあった恨み辛みの無い出来事で、いま目の前にいる彼らを苦しめたいわけではない。
知らない方が幸せな話の類いじゃないか?
説明する義務など俺には無いし、この件はカード化など説明しない話も含む。たぶんもなにも、死体が残ってないから、こんな事になったわけだろうし、その点は確実に突っ込まれる。
どうやって戦ったかだけ教えて、後の事は知らないで通すかね。
深く突っ込んできてもシラを切れば何とかなるか?
あれは自分がやったことの結果ではあるが、望んでやった事でもない。
世の中は理不尽だ。
召喚状の件といい、周りの都合が俺にとって面倒厄介な方に転がりすぎてる。
もう少しでいい、こちらの都合に配慮してもらえないものかな。