14-23 戦勝祭り⑤
「大変だねぇ」
俺たちの行動とは関係なく、兵隊さんらが帰ってきた。
彼らには3日間の休暇が与えられ、その休暇が終わってから、戦勝祭りが開催された。
神戸町から出て行った兵隊さんの死者は――ゼロであった。まぁ、配備された部隊が大野町の物資集積地点の管理担当だったため、そこまで不思議な話ではない。彼らは一回もディズ・オークと遭遇しておらず、戦っていなかったのだ。
そんな理由があるからか、兵隊さんらは話を聞かれるとどこか恥ずかしそうにしており、語れることなどあまり無さそうだった。
越前進軍前に行われた全体練習、簡単な歩調合わせの訓練や、行軍中に行われる移動命令の予習などを中心に話をしている。
ステージで行われている出し物とか、俺はスタッフとして散々練習で見たのであまり楽しむことが出来ない。
かといって、兵隊さんらにまとわりついて話を聞こうとすることも躊躇われる。
俺は遠くから祭りを楽しむ人々を眺めながら、屋台で買った串焼き肉を噛みしめる。
うん、甘辛いタレと肉の組み合わせは最高だ。
肉はちゃんとした処理もしてあるので臭みもほぼ無く、数種類の野菜とハーブを煮込んだものに蜂蜜でとろみを付けたタレが良く合う。美味い。
だがそれだけだと口の中がクドくなってしまうので、柑橘系の汁を混ぜた水でリセット。
冬場に冷たい飲み物を飲むのはどうかと思うが、熱々の肉を相手にするならこれでいい。
肉が冷めては大変と、俺はがっつくように肉に齧り付くのだった。
「創様、こちらもどうぞ」
俺の傍らに立つ夏鈴は、何が琴線に触れたのかは分からないが、一緒に買い食いをしている。
彼女から手渡されたのは小さなスポンジ菓子で、屋台の定番ベビーなんちゃらという奴だ。
こちらはホットドリンク、甘みを抑えたミルク8割のミルクコーヒーと相性が良く、夏鈴は嬉しそうに摘まんでいた。
なお、先ほど食べていた肉串を一切れ夏鈴にも食べさせていたが、その肉が嫌いとかそういう訳でもなく、美味しそうに食べてはいたのだが、スポンジ菓子の方が好みに合った模様。
俺はスポンジ部分に水分を持って行かれ、口の中が乾くような感覚がちょっと苦手なんだけどね。ドリンク無しで食べようとは思わないかな。
柑橘水とはちょっと相性が悪いが、肉を食い終えた俺は甘いスポンジ菓子を一つ摘まみ、口に入れる。
肉の味は洗い流してあったが、余韻として残った味と干渉し、ちょっと微妙な気分になる。
しかし肉の脂とは違う、砂糖の暴力的なまでの甘みが口の中を支配し、すぐにその違和感を塗り替えていった。さらに夏鈴に渡された飲みかけのミルクコーヒーで口の中のものを流し込むと、最初からこの組み合わせで食べていたかのような状態になる。
うん、美味い。
「そういえば、凛音と莉菜はどうしたんだろうな? 普段なら一緒に来たと思うんだが」
「あの二人も、たまには単独行動をしたいんじゃないですか? そんな事より、次の屋台を見に行きましょう」
俺と夏鈴は二人きりで行動している。
普段であれば三人娘をワンセットで連れているのだが、今は夏鈴だけだ。
祭りを楽しむのに邪魔になるからと主張して護衛の面々も護衛対象である俺から少し離れており、いざという時に対応できるギリギリの距離にいた。
何か、腑に落ちない。
「創様。次はバター焼きの屋台など、どうでしょうか?」
「そうだな。それもいいか。
夏鈴はあと、どれぐらい食べれる?」
「……次で最後にして頂けると」
「了解」
屋台はニノマエが中心になって出している。
味の確認はお仕事である。
ただ、仕事とは別に、楽しかったとは言っておくよ。
なにか引っかかりはしたけどね。