14-22 終は微妙な顔をした
「そりゃ、夏鈴ちゃんだって不機嫌になるだろ。なんでご主人がそこまで入れ込むのかが全く理解できないからな。
理解しがたいことに出くわした人間は3パターンの行動に出るもんだ。好奇心を向ける奴、とりあえず理屈を付けて話を進める奴、恐れて遠ざける奴だな。中には無関心ってのもいるだろうけど、ほとんどの奴はこの3つだ。
今回の夏鈴ちゃんは理屈を付けたみたいだが、あんまり嬉しくない理屈を付けたんだろ。嫉妬案件だぞ、ご主人」
夏鈴の話を終に振ってみた。
すると、「そりゃあそうだろう」と終に笑われた。
終は夏鈴が水無瀬少年に嫉妬していると言い、俺の対応の甘さを指摘した。
普段と比較し、甘過ぎる身内対応だと感じたようだ。
いくら同類かもしれないとは言え、これはやりすぎじゃないかと苦笑いをする。まるで長年一緒に居た夏鈴よりも少年を優先しているようにも見えると。
「いや、さすがにそれは無いかな。
もしも夏鈴と水無瀬少年のどちらかが死ぬような場面になったら、迷わず夏鈴を優先するよ。
夏鈴が再召喚で生き返るとか、そういうのは関係ない。水無瀬少年を理由に夏鈴を死なせる気はこれっぽっちも無いんだよ」
「……愛されてるな」
「そりゃあ、もう。ここに来て最初からずっと一緒にいる家族だし」
「恋人とか、そういう言い方はしないんだな?」
「なんで恋人? いや、家族ってイメージの方が強いかな」
ただ、夏鈴と水無瀬少年を比較するなら、俺は迷わず夏鈴をとる。
それは俺にとって当たり前の話で、三人娘の誰かとの比較ならともかく、水無瀬少年では天秤の釣り合いが取れることは無い。相当特殊なシチュエーションでも無い限り、俺は夏鈴を優先するよ。
それを終は「夏鈴は愛されている」と表現したが、同じような状況、経験を積んだ人間であれば、間違いなく誰もが同じ選択をすると思うんだが?
会って2ヶ月も経ってない少年と、5年間ずっと一緒に居た夏鈴を比べる方が変じゃないか?
普通だろ、普通。
あと、俺たちの間に男女の恋愛感情は無いと思うよ。
大切でずっと一緒にいたい家族・相棒ではあるが、妻・嫁・恋人……うん、男女の関係は何かしっくりこない。
性的な関係を結んだ所で、その状況も複数人と特殊だったし、男女の関係とは明らかに違うだろう。
あれで一対一でそういう関係になっていればまた話は変わってくるが、あっちも俺をそういう目で見ていないと思うぞ。
もしも俺と恋人関係になりたいのであれば、他の2人を混ざらせる理由が無くなるし。
個人的に、男女の関係って独占欲を含むと思うんだ。
「みんなで共有」は男女ではなく、敢えて言うなら家族愛に近いだろ。
俺が恋人を作ったとして、その恋人を他の男の下半身と共有だなんて話になれば、間違いなく発狂する自信があるからな。例えそれが俺の知り合いの誰であっても、だ。
恋人が出来れば、互いに独占するのが正しい在り方じゃないかな。少なくとも、俺はそう思う。
俺の話を聞いた終はもの凄く微妙な顔をしていたが、俺の意見の方が多数派であるという自信がある。
そもそもハーレムだって、戦争で旦那が死んだ未亡人を救済するとか、男女比が狂ったのを調整するとか、ごく一部の貴人の血を絶やさないようにするだとか、そういった理由付けのある社会システムだぞ。あと、エロ男の欲望。
普通の恋人同士は一対一。
そこを間違える気は無いのだ。