14-21 不機嫌な夏鈴
少年に1つの話を持ちかけ、約束をした。
ちょっとした善意、善行という奴である。
ただ、それをした後の夏鈴が、もの凄く不満そうであった。
「創様は、あの水無瀬に甘過ぎではありませんか?
あのような子供と何日も一緒に行動するなど、リスクしかないではありませんか。
その数日間は力を使わないおつもりですか? 一緒に行動すれば、力の子細が露見する危険がどれほどあるのか、創様なら分かるはずです」
水無瀬少年と行動を共にする事で、俺のカード能力がバレる事を気にしているようだった。
基本方針として、他人には教えないようにしてきたので、彼だけ特別扱いをするのが不満な様子だ。
なお、先ほどの約束は事前に誰かに相談したものではなく、その場のノリと勢いがかなり混ざっている。
敢えてそこに触れないという事は、相談しなかった事の方が重要かな?
怒れる夏鈴だが、どこか拗ねているようにも見える。
俺は夏鈴の頭を乱暴に撫でると、1つだけ反論をすることにした。
「髪がっ!?」
「半年はかかるだろうし、それまでに見えてくる物もあると思うよ。
あと、いざとなれば俺以外を用意することも出来るからね。逃げ道は確保してあるから、そう怒らないでくれ」
「……あの3人に頼むのですか? 確かに、旅慣れていますものね。
でも、たった100万ではあの3人への報酬としては足りていないのでは? 桁を1つ増やさないことには適正な金額とは思えませんが」
手櫛で髪を直す夏鈴。
俺の考えていた「次善策」に使う人員をピタリと言い当てた。
少年を仙台まで運ぶだけなら、フリーマンの3人に依頼したってなんとかなる。
彼らの能力は高く、かつて越前まで傭兵をしに行った経験からも分かるように、長い旅路にも充分適応している。サバイバル能力も高いので、時期さえ選べば食料と水を無しにしても仙台まで行けることだろう。
少年を任せるには打って付けの人選である。
問題は報酬の話であり、彼らを雇うのであれば一千万円でも安いと思うよ。
友達だから、仲間だからと報酬をケチるような真似をしないのであれば、倍は払った方が良い。
優秀と思う人材を3人、片道2ヶ月、往復4ヶ月拘束する。
護衛対象がいるわけだし、命の危険だって考えられるので、それぐらいが妥当だろう。
本職ならともかく、元々そういった仕事をしているわけでもないのにお願いするのだから、報酬ぐらいはきちんとしたい。
身内だからこそ、そこはグダグダにしてはいけないのだ。
「まぁ、そうやって色々と考えて下さるのであれば、それでいいのですが。私達はなんでも出来るわけではないと、その事を忘れないで下さいね?」
「勿論。俺たちは最強でも無敵でも無い。万能にもほど遠い。そんなこと、忘れやしないよ」
機嫌を直した夏鈴が最後に忠告をする。
なんでも出来ると勘違いして、無茶なことをしないようにと。
俺は笑ってそれに応えるのだった。