14-20 重要な確認③
さて、この話の妥協点はどこだろうか?
少年は、家に帰りたい。
ただ、この世界は少年の生きていた時代では無い。もっと先のIFである。
精々、心に区切りを付けるため、仙台に行くぐらいだろう。
俺としては、それを手助けする理由が無い。
そして手を貸さない理由は手間と時間の問題ぐらいか。貸さない理由はあって貸す理由が無ければ、貸さないのは当然である。
ただ、まぁ。この話には抜け穴がある。
俺が手を貸す理由を作る事は可能なのだ。
とは言え、それを少年に考えろと言った所で無駄である。
少年は俺の事をほとんど知らず、ニノマエの誰かから伝聞で知ったぐらいだろう。ほんの1日2日、一緒に居た相手の事を「ちゃんと知っている」と考えるのは相当な馬鹿ぐらいである。人を知るには相応の時間が必要なのだ。
だから、ここは俺が正解を教える事で話を進めてしまおう。
大人が子供に手を貸す事は、田舎なら不思議な話ではないのだ。
家族だけじゃない、地域みんなで子供を育てるんだよ。
「少年がもしも仙台に行きたいって言うなら、手はあるよ。
頑張ってお金を貯めなさい。その貯めたお金で、信頼できる人を雇えるように手を貸そう。少年が仙台を見てどう思うのかは知らないけどね。でも見る所までなら手は貸せるよ」
「いくら、でしょうか?」
「100万だね。その道のプロを片道2ヶ月近く拘束するんだから、かなり安い金額を提示しているつもりだよ」
故郷の風景を見たいのであれば、覚悟を見せろと俺は言う。
金銭と覚悟を一緒くたにするのは下品と思う人もいるだろうが、これが一番分りやすい覚悟の確認方法なのだ。本当に金が欲しい訳では無いが、せめて金を貯めるぐらいの気概は見せて欲しい。
提示した額は100万円。
金の価値は現代日本と同じぐらいなので、ニノマエの払う少年の給料で言えば、爪に火をともすような生活をして半年って所かな? そこそこの生活レベルを維持するなら1年は要ると思う。バイトでもするなら……いや、それでも3ヶ月はかかるだろう。
貯める事が不可能な金額ではない。
「――分かりました。貯めます。貯めてみせます。
だから、手を貸して下さい。お願いします」
「ああ。言ったからにはちゃんとするよ。俺は約束は守る質だって言われているからね。大船に乗ったつもりで安心してくれ」
金で願いが叶う。
それを知った少年の目が輝いたが、金額を告げるとその輝きが消えた。
だが、すぐに彼は立ち直る。
水無瀬少年は、少し考える仕草をした。
そして何か言おうとして、それを止め、先に俺に頭を下げ、それから「お願いします」と、仙台に行きたいと口にした。
「お願いします」と口にした声の感じからすると、かなり本気だっただろう。
言い淀んだのは、値下げ交渉をしようとしたからかな? まぁ、交渉材料が無い事に思い至り、何も言わずに抑え込んだみたいだけどさ。
これで「もっと安くなりませんか?」と言いだしていたら、本気で軽蔑しただろうね。
1ヶ月平均50万で旅先案内や護衛をするだなんて、破格と言ってもいい所だからね。
出来るというなら、2ヶ月間、休み無しで24時間それをしてみればいい。俺だってモンスター召喚が無ければ100万円でも安いと言うさ。倍の月に100万円だって嫌だよ。
口頭ではあるが、これは契約だ。
俺はこの大事な意思確認を済ませると、「また今度~」と、水無瀬少年に背を向けた。
約束はちゃんと守るけど、細かい部分は相手任せ。
もしも悪い事をして金稼ぎをするようであれば、金が貯まる前に豚箱に入ってもらう事になるが、さすがにそこまで馬鹿では無いだろう。
できれば、周りに理由をちゃんと話し、手を貸して下さいと頭を下げるぐらいの器を見せてほしいものだ。