14-19 重要な確認②
「諦めたく、ないです。でも、死にたくないです」
俺のデリカシーに欠ける発言によって、コーヒーで上向いた水無瀬少年の感情が、一気にマイナスに落ち込んだ。
少年は俯き、空になったカップに目を落とすと、そのままポタポタと大粒の涙をこぼした。
うん、失敗した。
15歳の少年が、訳も分からず家族や友人と引き離され、平静でい続けられるはずもなかった。
これまでの行動も含め、無理をしていたんだ。
抗えない現実、足りない余裕の中で四苦八苦していて、それでもどこかに希望を探していた。
俺はすっぱりと諦められたけどね。日本帰還の願いは、まだ強く少年の中にこびりついている事だろう。
まだ、子供なんだよねぇ。俺のようなのの方が珍しいのかもしれない。
仕方が無いので、席を外しコーヒーのお替りを淹れる。
今度はミルクと砂糖多めで、コーヒー味の飲料って状態だ。
某最高なコーヒーではないが、感情が悪い方に向かっている時は、甘いコーヒーの方がきっと優しい。疲れた心に沁み込むんだよ。
甘いコーヒーが苦手な人もいるけどね。少年は大丈夫だろうさ。
少年の家族が生きていない事は当たり前。
同じようにこっちに来ていない限り、再び会えると思う方がおかしい。
で、それ以前の問題として、仙台まで行けるかどうかも怪しい。
一人で旅して、運が良ければ2ヶ月ぐらい歩けば行けるけど。あくまで、運が良ければの話。
途中で雨が降れば足止めされるし、嵐になれば普通に死ねる。大雨だけでも十分危険だ。この世界で現代日本ほどの治水がされているとは思わない。何もしていなかったとしても驚かないよ。
真面目な話をすると、俺が連れて行けば、そりゃ行けるだろうけどね。
今の少年が仙台に行ける可能性を見い出すなら、それぐらいじゃないかな。
そんな気はまったく無かったんだけどね。
実は、草原大狼の誰かを少年につけて仙台まで運ばせようと考えた事もある。
草原大狼、たとえばオーディンなどなら、仙台まで3日か4日で辿り着くことも可能だから。他の奴でも片道10日はかからないはずだ。
ただ、その方法は大狼らが嫌がった。
俺がいないと、まともなご飯にありつけないから、と。
そうなんだよね。往復20日分の食料と水を運搬しないといけないなら、手間はそうとうなものだ。質を落として軽量化などしたくは無いだろうから、どうしてもかさ張る。
キャラバンのように複数、チームで動けば一頭あたりの負担も減るけど。そこまでするなら付いてきてくださいよと、目で訴えかけられた。
そうやって貸し与えた仲間による運送はできないと思っている。
ニノマエの連中を仙台まで派遣するっていうのも、理由が無いからね。完全に手詰まりだ。
もしも、の話をするなら。
水無瀬少年が俺のカードになった時ぐらいかな。連れて行くのは。
そういう結果が来ないように、少年には安全な町で生きていて欲しいけど。いつまで我慢できるかな?
子供らしく、衝動で外に飛び出しそうな可能性も有るには有るんだよな。