14-17 戦勝祭り④
本音を言えば、水無瀬少年には期待していなかったのだ。
だが、「それでも」とチャンスだけを与え続けた。見捨てる理由を作るために。
俺はチャンスを与えたけど相手はそれを活かそうとしなかった。
ならば見捨てても仕方がないと、自分の中で面目が立つ。
何もせずに捨てたとしたら、それはきっと俺の心の中で棘になるだろうと思ったのだ。
だが、現実は俺の想像を超えて、水無瀬少年が立ち上がるという結果となった。
周囲とのコミュニケーションをちゃんと取り、他の人とうまく付き合う。個人的な付き合いを持つかどうかは横に置き、こちらの課題をクリアしてみせたのだ。
無理だと思っていたので驚いているが、それとは別に嬉しくもある。
好き好んで人を見捨てたいわけじゃないからね。対等な付き合いができるなら、その方が良いのだ。
水無瀬少年は結構スペックが高く、現場の人からも信頼をされている。
多少のトラブルはあるものの、経験不足という点を加味すれば許容範囲であり、周囲がフォローすべき内容がほとんど。本人のミスはあまりない。
さすがに皆無とはいかなかったようだね。当たり前だけど。
周りと上手くやれた一番の理由は、現場最年少という事だと思う。
おっさん連中は年下に甘い人が多いから、仕事の上では厳しくても、それ以外はかなり優しい。
あとはできる仕事だけ任されているうちに、徐々にできる事を広げ、能力を認められればもっと優しくしてもらえる。
ほんの数日で、水無瀬少年は上手くやるコツを掴んだようだ。
思い返せば、ニノマエでも仕事は評価されていたし、周囲とちゃんと話ができた。
つまり、やろうと思えばできる事、という話だったのか。
本人にとって職場と上手くやるのは必要だからと理解できる範囲で、それ以外と上手くやるのは理由付けが弱かったからか?
何と言うか、高校や大学で仲の良かったクラスメイトと卒業後にほとんど連絡を取らず、そのまま自然消滅するのと同じ様なものなのかな。所属しているグループとだけ付き合いがあり、プライベートは完全に別という考え方とか。
偏った考え方と言うか、表面上を取り繕うような生き方であるけど、問題は無い……よな?
それなら現代日本の嫌われもの、消防団の様な地方組織に組み込めば問題は解決するだろうか。継続的に周囲と関わる場を持つわけだし。
そうして長期戦に持ち込めば、個人的な付き合いを持つこともあるだろう。町のみんなはわりと躊躇なく踏み込んでくるから。
俺は水無瀬少年に声をかけない。
ちょっと遠くから、他の人と話す様子を眺めているだけだ。
上手くやっている所に割って入るのも良くないだろうからね。ニノマエの方に言伝だけ残しておけばいいだろう。
そういえば、少年は故郷の仙台を目指すのかな?
それとも神戸町に骨を埋める覚悟なのかな?
ま、独り立ちできるようであれば、どんな選択をしても構わないと思うけどね。