14-14 戦勝祭り①
有名な冬の祭りで最初に思い浮かぶのは、雪まつりなどだ。
だがここは美濃の国で、岐阜県の南側である。雪は積もるが年に一回二回、雪像を作ったところですぐに融けて消えるだろう。
国が、気候が違うのである。
他にも雪合戦とか、そういった系統の祭りなどできやしない。
安定して雪があるわけではないのだ。
雪といういつ降るか分からない物に賭けたりしないのなら、冬の時期にさわぐ理由よりも、別の方向性で考えた方が良いだろう。
もうすぐ越前の国の平定が終わる頃なのだ。
戦勝記念の大騒ぎという方が、騒ぐ理由としては分かりやすい。
署長さんも絶対に勝てると言っていたし、俺も負けは無いと思っている。
ここは戦勝という大きな波に乗るべきではないだろうか。
「あー、そういえば、そろそろ勝ったとか言う話が聞こえてきてもおかしくはないなぁ。
うん。確かに、騒ぐ理由としては十分だね。帰ってきた兵隊さんらを労う祭りを今から準備する。ニノマエさんから資金の提供がある、と。
いいね。その話、乗ったよ」
こちらの思惑は隠して、町全体のイベントをしないかと、町長さんに話を振ってみた。
建前として、勝って帰ってくる兵隊さんを労うという、非常に分かりやすいお題を前に出した。
で、俺はニノマエで支援をするから、出店などのちょっとした見返りをお願いしつつ、町全体のイベントにしようと言い出したのだ。
勝ち戦の兵隊さんは英雄のようなものだ。みんなの前で褒め称えられ、大きな名誉を得るのである。
戦死者も当然いるだろうし、そちらは慰霊・鎮魂が必要になる。
大々的に彼らを扱い、名誉で報いようとすれば、俺の提案するイベントというのは、町にとっても非常に都合がいい。
堅苦しい勲章の授与のようなものは美濃の国全体で行うが、町民を町が労うのに堅苦しさなど必要なく、派手に騒ぐぐらいでも構わない。
生きている人間はともかく、死者をなんだと思っているのだと言われそうな話であるが、死者の弔いに涙など不要である。
きっちり別れを告げ、生きている人間は前を向いて生きていかねばならないと区切りを告げるだけなのだから、むしろ派手に騒ぐ方が善いのだ。
死別の悲しみを振り切るためにも、大いに騒ごう。
俺はとりあえず酒類の大規模な提供を行い、女性用に甘味を用意し、ついでに肉類も猪肉を中心に集めてみた。
この手のイベントには酒が付き物だが、騒ぐのなら甘い物と肉類もあった方が良い。
町の人と何年もの付き合いにより、俺はそれを学んでいる。
特に甘味は女性を狂わせるのだよ。
ケーキ類は高い人気を誇るし、奪い合いになる人気商品だ。
これは時代を越えて不変の事実である。
大規模な祭りという事だが、飲食店関連はこちらがメインで引き受ける。
それ以外の部分、他の催し物は町長さんが用意する演劇や演奏などで場を盛り上げるらしい。
そちらは俺が口を挟む事ではないので、完全にお任せである。するのは資金の提供と人の貸与ぐらいだ。
こちらは口を挟まないので、ぜひ、扱き使ってやって欲しい。




