14-12 飯マズとご近所付き合い⑤
反論もしなかったけど、こちらの言葉に納得するようでも無かった。
手応えを感じない説教だった。
残念ながら、この手の説教というのは、言う側の説得力というのが重要だ。
そして若造である俺の言葉は、説得力に欠ける。
思いが伝わらないのも致し方ないと言えるだろう。
だが、だからといって手心を加える気は無い。
これでもし状況に改善が無く、周囲へ馴染もうとしないようであれば、フェードアウトするように見捨てる事になるだろう。
説教の説得力と見捨てる事とは話が別。水無瀬少年は俺の身内では無いからね。
しかし、説得が上手くいかなかった時の別案はあまりいい手が無い。
もしも夏であれば盆祭りがあったし、秋なら収穫祭と豊穣祈願の舞台があった。
ちょっと年代が合わないけど、春だと子供中心の地蔵祭りという、神輿を担いだ子供が町内を練り歩くイベントもある。
そういった町ぐるみのイベントがあれば、共同作業になる準備で多少は仲良くなれると思う。
けど、冬を目前にした今は、取り立てイベントが無いんだ。
強いて言えば大晦日と正月の2つがあるけど、こちらの大晦日と正月は地味なんだよな。そこまで人と仲良くなる種類のイベントでは無い。
どちらかと言えば、家族の絆とか、そういった方面のイベントなのだ。町の誰かと仲良くするイベントでは無い。
クリスマス? この時代では祝わないみたいだね。バレンタインも無いし。
これは流通が死んでケーキにフライドチキン、チョコレートが廃れた影響だと思う。細かい経緯は知らないが、嫉妬マスクが恋人同士のイベントを潰したとか、そういう話ではないはずだ。
そんな事を考えていたら、ケーキが食べたくなった。
苺を乗せた、ショートケーキ。
チョコクリームやたっぷりフルーツのケーキも思い付いたけど、オーソドックスな苺ショートが欲しくなった。
普段から飲んでいる高品質な牛乳を生クリームにして、砂糖に卵白を加えて甘みとコクを足す。あと、クリームは凍らない程度に冷やしておく。
スポンジには卵をたっぷり使い、ちょっと塩を入れた甘さ無しのシフォン風にする。クリームの甘さを引き立てるためには、この方が都合が良い。
苺はカード化してあるものを使うだけなので、特に何かする必要も無い。
スポンジにクリームを塗り、苺を乗せて切り分けるだけ。
カード化能力で手軽に作れる、簡単な苺のショートケーキの完成だ。
出来たケーキを切り分け、夏鈴ら3人娘と一緒に食べる。
ケーキは好評で、俺も美味しく出来たとは思うけど、そこでふと思った。
俺の場合は、こうやって色々作れるから心に大きな余裕があるけど、少年はそんなものを持ってないんだよね。
自分を支える何かを与えられず、過去の記憶はそのままで。心の余裕など、1mmたりとも無いだろう。
だからといって、彼の駄目さ加減を許容してあげる何かは俺に無い。
精々、怒鳴り散らしたりしないだけだ。
境遇には同情するが、そこから先は自己責任である。
助けてあげない。
助けられない。
俺の秘密を明かせるほどの場所に、少年はいない。
それをどう覆すかは、少年次第だ。
そう言うことで、必死に責任逃れをしている気になった。




