14-6 水無瀬 裕⑥
いや、普通に考えて無理だろう。
面倒を見て欲しいと懇願してきた水無瀬少年を、俺はバッサリと切り捨てた。
今の俺は、およそハタチ。
で、水無瀬少年は15歳。
俺に、水無瀬少年の保護者、親になれと?
あり得ないだろう。
少年は「しばらくの間」とはいうものの、そのしばらくとは、たぶん彼が20歳になるまでぐらいじゃなかろうか。
俺は基本的に村にいるし、そちらと頻繁に行き来するのに、少年を連れ歩く?
無いね。うん、無い。
俺は秘密にしたい事が多々あり、特に居住地の情報は秘匿事項だ。
俺以外に知っている誰かというと、ジンやフリーマン3人組、エルフの皆さんの中でも本当にごく一部しか知らないトップシークレットなのだ。
連れ歩くなど以ての外である。
だからといって村に閉じ込めておくというのも気が引けるので、それを考えると村の外で養うしかない。
つまり、俺が直接面倒を見るというのはあり得ない。
「残念だけど、俺は定住者ではなく流民だからね。子供を連れ歩く事は出来ないんだよ」
まぁ、水無瀬少年も、今は流民なのだが、そこは敢えて突っ込まない。
だけど、変に粘られないよう、矛先を逸らす。
「ただ、隣町、神戸町には俺の経営する店があってね。そこの住み込み従業員としてなら、“しばらくの間”雇っても良いと思ってるよ」
子供ではあるが、水無瀬少年は読み書き計算が出来る。
ならば、ニノマエの店で丁稚奉公でもさせれば良いだろう。
あとは農家の爺さんにでもお願いして、たまに相手をして貰えばいいかな。
同年代の子供は少ないが、いる事はいるわけだし、村に置いておくよりはずっといいだろう。
正直、これでもかなり譲歩しているというか、俺の持ち出しばかりの対応だ。顔を合わせてから1日と経っていない相手への善行なので、破格の待遇と言っていい。
世間一般で考えれば、今の俺はまさに仏。慈愛、寛容、優しさの権化であるはずなのだが。なのだが。
「そんな……」
水無瀬少年は、捨てられた子犬のような、潤んだ瞳をこちらに向けてきた。
俺には一切効果が無いけどね。
「おいおい、月一で顔を出すから、そんな目をしない。男の子だろ」
「うぅ……。はい」
もしも少年が犬なら、耳と尻尾が垂れ下がっている事だろう。それぐらいショックを受けた様子だ。
でも、駄目である。こんな所で甘い顔をしない。
ほぼ初対面な俺がここまで手を貸している事がどれほど幸運なのか、少年はまだ理解できていないだけなんだ。
理解できるぐらい成長すれば、まぁ、大丈夫だろう。
しばらく町で働いていれば、それぐらいは分かるようになるだろうさ。
時間はそろそろ夕方にさしかかる所であった。
このままここに居てもしょうがないので、さっさと神戸町に移動しよう。
今日はニノマエの店で寝て、明日の朝一で挨拶回りだな。
俺は神戸町の誰に少年の面通しをしておくか、その順番を考えるのだった。