14-5 水無瀬 裕⑤
「いや、何もしませんよ。犯罪歴も何もありませんからね。
これでもし犯罪に巻き込まれていれば犯罪者から守ることはしますが、そこまでです。事件性が無い以上、警察として動く事はありませんよ。
他の警察でも同じ事を言うでしょうね」
署長さんではなく、受付でそんな事を言われた。
受付で軽く説明をしてみたら、未成年者だからといって特に何かしてくれるわけではないと言われた。
民間人の保護は確かに大切だけど、誰かに攫われたとか、狙われているとか。そんな事情でもない限り、後は本人の自己責任でしかない。
と言うか、出身が美濃の国の中であれば送り届けるのもやぶさかでないけど、余所の国では大垣市の警察として何かする理由もない。
……つい日本って国の枠で見ていたけど、今はいくつもの国に分裂している事をすっかり忘れていたよ。
あと、この時に初めて知ったんだけど、宮城のあたりは陸前の国というらしい。奥州の国の岩手県を越え、その先が陸奥の国で、青森県。
あんまり地理に詳しくないが、今の国名はこうなっているらしい。
公園のベンチに、二人並んで座っている。
さて、どうしようと俺は頭を悩ませる。
購入した温かい飲み物をちびちび飲んでいると、せっかく同じものを買ってあげたのに水無瀬少年は口も付けようとしないほどに落ち込んでいた。
いや、この場合は途方に暮れているが正解かな? 外国で頼れそうな人もいないし、お金は俺がある程度出すけど、どうやって帰ればいいんだろうって考えて思考停止に陥ったとか。
現代日本なら新幹線か飛行機か、どちらか使えば即日で帰ることができる、しても一泊程度だろう。
けど、そんな高速・長距離移動手段がない以上、歩きで2ヶ月3ヶ月の移動を覚悟しないといけない。
世の中には船という手段はあるけど、それを使うには『コネ』が足りない。
交易で船は出ているので、上手く乗り継ぐことができれば10日程度で帰れると思う。だが、乗船拒否をされて終わりなのだ。
船の上は逃げ場が無いからね。身元を保証する人がいないと乗れないんだよ。
俺だってこちらに来たばかりなら厳しいとしか言えないからね。
今の俺ならオーディンに頼んで数日の距離だけど、当時は普通の草原狼だったし。乗るなんてまず無理だ。
しばらく準備を重ねれば何とかなるだろうけど、行く理由も無かったからなぁ。
俺が竹筒に入った暖かいお茶を飲み終えても、水無瀬少年はまだ動けないでいた。
この子の場合は、まだ落ち込む理由があるからね。
仙台市に帰ったとして、どうするのかって話なんだ。
彼は地元で生活したいだろうけど、今の彼は地元の人間じゃない。ただの流民だ。
仕事や住む場所はどうするのかという問題が出てくる。
俺のようにある程度力があればいいけど、この少年にはそれも無いからね。かなり詰んでいる。
養ってくれる親がいない以上、自力で生きていかなきゃならないんだよ。
「あの」
「ん? 何かな?」
ここで放り出すのも可哀そうだし、今日ぐらいは助けてあげようと仏心を出した俺。
そんな俺に、水無瀬少年は縋りつくような目を向けてきた。
実際、俺ぐらいしか縋るものが近くに無いんだけどね。
「創さんの所で、しばらくお世話になる事はできませんか?」
「それは無理」
仏の創さんは、一瞬でお亡くなりになったようです。