14-4 水無瀬 裕④
この水無瀬裕と名乗った少年との話し合いは、すぐに終わった。
何も分かっていないのだ、この少年は。
それは俺も同じで、なんで俺はいきなりこんな所に居たのか、未だに分かっていない。
目の前の少年が何も理解できていないのは仕方がない。超常現象が相手では、そんなものである。
「それで、創さんが知っている事も教えてもらえませんか?」
「ま、答えられる範囲でだけど、知っている事は教えるよ」
で、代わりに俺がいくつもの情報を吐き出した。
署長さんという権力者と付き合いのある俺は、そこそこ情報通であると思う。この世界一般から見たら、知識人であると言っても過言ではない。
ただ。
「じゃあ、仙台というか、宮城県の情報は全く無いんですね……」
「ああ。さすがに数百キロ離れたような土地の情報は無いね」
俺の話せる情報というのも、高が知れていたりする。
彼が知りたいのは主に地元の情報だ。岐阜県近辺ではない。
今の彼に東海・北陸地方の情報は要らないのだ。
「ま、これも何かの縁だ。多少の金銭援助はするよ。まずは大垣市の警察に預けるけど、国に帰るなら、そのお金で頑張りな。
大垣への出発は――昼飯を食べてからでいいか。流石に眠い。俺は一寝入りさせてもらうよ」
「え、その、すみませんでした!」
「いいよ、構わないさ。水無瀬君も、今は無理をしてでも寝ておくといいよ。じゃないと後がきついからね。
おやすみ」
話を終えると、俺はもう一度寝ることにした。
すでに太陽がわずかに見え始めるような時間で、今から寝たら、間違いなく昼前までは起きれないだろう。
ここを朝一に出るつもりだったが、昼一に変更するよ。
寝不足のまま行動する理由も無いからね。
寝不足を理由にオーディンの背から落ちたら大惨事だよ。
「よし、頭はすっきりしているな」
寝直した俺は、予定通り昼前に目を覚ました。
パンにハムとチーズを挟み、牛乳でそれを流し込む。ついでにカットしたリンゴを食べて、寝起きの食事は終了。
起き抜けだから軽めである。
体調は万全で、これなら特に問題無いだろうという所まで回復した。眠気もちゃんと抜けている。
そして俺は水無瀬少年の所に向かったのだが。
「寝てるのか。ま、いいか、じゃないね。ここは起こしてしまおう」
少年はいつ頃寝入ったのか知らないけど、まだ寝ていた。
なかなか図太いと言うか、こちらの調子が崩れそうになるお子様だ。大物である。
たぶんも何も、危機感が足りないんだろうね。
現状を正しく把握していれば、ここまで気を抜けるものでもないように思えるけど。
俺が支援者として名乗りを上げて、それを信用したからこうなったのかもね。
俺に裏切られたら死ぬけど、信用してもしなくても、そういう意味では結果は変わらないし。それならこれぐらい図太いぐらいでちょうどいいのかもしれない。
ま、肝が据わっているのはこの子にとっては良い事だよね。一回お金を出すだけの俺には関係の無い話だけど。
この後俺は、叩き起こした少年に目隠しをしてもらってから、オーディンと大垣市に入った。
さて、この正体不明な少年は、どんな扱いをされるかな?