14-3 水無瀬 裕③
夜中の食事だ。重い物より軽い物がいいだろうと雑炊を用意してみた。
溶き卵と塩焼きした川魚を一緒に煮込み、最後に刻みネギを散らしてみた。
少年はずいぶんお腹を空かせていたようで、“最初の方は”勢いよく食べていた。
しかし、お椀に入った雑炊を半分ほど食べると、箸を置く。
作り過ぎた、という事は無いと思ったが、他人の食事量など外からでは判断しきれないものである。
小食なのだろうと思ったのだが、顔を見ると、どうやら違う理由のようだね。
「口に合わなかったか? 川魚は苦手かい?」
「あ、と。いえ、その……」
歯切れが悪い。
クッソ腹が減ったところでタダ飯を食わせてくれた相手に、「お前の飯が不味いんだよ」というのは、良識があると難しい。
俺は年上であり、少年よりも強いから、俺が怒らないように少年が気を遣っているのだろう。
訂正。
気を遣っているつもりというか、こちらの顔色を窺っているだけというか、そんな感じだな。
飯に対する不満を隠しきれていないというか、もっと美味い物を寄こせと言うか、そんな感情が表に出ている。隠しきれていない。
子供ならしょうがないか。きっと素直なタイプなのだろう。
今晩は助けてあげるけど、どうせ明日になれば警察まで送り届けるだけの相手だ。
名前ぐらいは確認するし、事情も聞きはするけど、それだけの相手にいちいち怒ったりしないし、叱って指導する理由も無いね。
「ま、食いきれんなら残しておきなさい。食べ物の苦手とか、いきなり改善しろと言われてもなんともならんからな」
「う……。すみません」
うん。言う事はちゃんと聞くし、悪い子ではなさそうだ。
ただ、素直すぎるし、こちらの情報を与えすぎるのは良くないか。
場所とかの情報は伏せるべきだな。
「ま、飯はもういいって言うなら、そろそろ話し合いを始めようか。
俺は創。流民だから姓は無いよ」
「あ……と、その。ぼ、僕は『水無瀬 裕』です。仙台市の――から来ました。
ここ、どこですか? 家に連絡を取りたいんですけど、スマ……電話、貸してもらえませんか?」
「電話? んー、尾張の国ではそんなものもあると聞いた気がするけど、ここには無いね」
おや? この子は状況を全く把握できていないようだ。俺はここに来た時から何となく状況を理解していたのに。
スマホ、電話ときたかー。無いよ、そんなもの。
村と家との間にはあるけど、この子が言いたい事はそういう事ではないし、この情報は伏せておく。言うだけ無駄だ。
ただ、この水無瀬少年は俺の同類ではありそうだな。
俺よりも状況を理解できていないようだけど。
もうちょっと情報を引き出したいけど、どうやって突いてやろうか?
「電話が無い? え? どんな田舎?」
都合よく、水無瀬少年が失礼なことを呟いたので、そこに便乗しておく。
「おいおい。電話なんてものは、美濃の国の、どこでもでも使われていないシロモノだぞ。電話が無かったからって田舎は無いだろ」
「へ? 美濃の国? あ、すみませんでした!」
水無瀬少年は、まず『美濃の国』という言葉に引っ掛かりを覚えたようだったが、その後、すぐに頭を下げた。
ま、いいけどね。怒ってないよ、と笑顔を見せたら、なぜか余計に怯えたよ、このお子様は。
「ま、明日になれば、大垣市の警察に少年を引き渡すよ。
後の事はそこを頼ればいいからさ、あちらに説明するためにも、水無瀬君がどうしてあの場にいたのかとか、そういう話を聞かせてもらえるかな?」