14-1 水無瀬 裕①
それは砦から家に帰る途中の事だった。
その日の俺は朝一で砦に向かい、砦の改善を行い、夕方、暗くなる前に家に戻ろうとしていた。
魔法の灯りはあるが、わざわざそれを使うまでもない。
俺はオーディンの背に乗っていたのだが、オーディンがいきなり立ち止まり、俺を乗せたまま全く関係ない方向に走り出した。
で、草むらの中で横になっている子供を見付けた。
歳は15になるかならないか。
服装はこちらの一般的な男用の服。
顔立ちは、まぁ、普通だと思う。泣いていたのでちょっと判断を保留してあげたい。
気になるのは、荷物を一切持っていない事。
そしてこの場所が、俺の家からそこまで離れていない場所であるという事。
普通に考えればゴブニュート村と砦の間にあるこの場所は、そのどちらかを経由しないと潜り込めない。
他のルートは山道になり、そこを通れば見付からずに来れるとは思うけど、それなら服がボロボロになっているだろうから、それは無い。
普通の服で山道を移動するのかは過酷なのだ。
つまり、この子は俺たちに気が付かれる事無くこんなところまで来ることができる達人的な何かか。
それとも、俺と同じ、時間転移者である。
前者である可能性はほぼ無い。
この子がそんな大した存在ではないというのは、見ればわかる。
ぱっと見ただけで言えば魔法も使え無さそうだし、何らかの一芸持ちが持っているオーラも無い。普通の子供だ。
それ以前に不安で泣きはらしている顔を見れば、意志をもってこの場に来たわけではないと、すぐに分かる。
ただ、後者の可能性もあんまり高くは無かったりする。
俺はこれまで同じ境遇の誰かと会った記憶が無い。
もしかするとニアミスしていたり、気が付かなかっただけかもしれないが、知らないものは知らない。
つまり俺という実例から来る判断だ。
どちらにしても、この子をここに置きっぱなしにするという選択肢はない。
敵対するかしないかは横に置き、確保して、監視するぐらいはしておこう。
いや、それより先に話し合いをするべきだったな。
俺は現状の危険性を頭の中で計算するより、対話による接触を試みた。
「なぁ。お前、どうやってここに来た?」
あ、しまった。話し合いをするなら名乗るのが先だったか?