13-26 閑話:少年
少年は、訳も分からずそこにいた。
少年は先ほどまで、家で家族と夕飯を食べていたはずだ。
それなのに、気が付けば見知らぬ場所に居た。
屋外の、人気のない草原に。
少年は訳も分からず困惑する。
「ここ、どこ?」
何が起こったか分からない中、たった一人では心細く、少年はその場に座り込んでしまった。
「そうだ、スマホ……無い? 服も違う? 何、この恰好?」
少年は常識的な思考として、現在地の確認にスマホを使おうとした。
だが、スマホは体のどこを探しても見つからない。
服のポケットに入れてあったはず、と思い出したが、そこで己の格好を確認し、その服が違っている事にようやく気が付く。
少年は、自分に起きた事が超常現象、異常事態である事をようやく実感する。
薬か何かで眠らされてここに来たのではない。もっと別の、何か不思議な力でここにいるのだと。
そこで、少年はふと思い出す。
“異世界転移”というフィクションの事を。
「『ステータス』『ステータスオープン』『インベントリ』『鑑定』『レベル』『ログアウト』『シャットダウン』『ファイヤーボール』『フレイムアロー』……駄目だ」
少年はゲームとライトノベルで身に付いた単語をいくつも並べ、何か起きないかと期待したが、無駄であった。
残念ながら、この世界にはレベルやステータス、スキルといった概念が無い。
また、魔法名を言っただけで魔法が発動する事も無い。
よって、言葉を羅列したところで何も起きない。
「喉が渇いた……。水……。お腹もすいた……。
僕、ここで死ぬのかな……」
少年が現れた時は昼過ぎ程度であったが、しばらくそんな事を繰り返していた結果、夕方近くになっていた。
それだけの時間を過ごせば、喉が渇くしお腹も空く。
だったら、そうなる前に動けばいい。
動けるうちに水と食い物を確保しておけばそんな事にはならなかった。
外から見ている者がいれば、そう思っただろう。
だが、少年はまだ少年でしかなく、こういった事態で冷静に動けるほどの経験が無かった。
ラノベ知識で似たような境遇の誰かを知ってはいても、自身がその立場になった時、そのように動けるとは限らないのだ。
この少年はまだ自立心の足りない子供なのだ。
時間を無為に潰してしまったとしても責める事はできない。
立つ気力もなくなった少年は草むらで横になる。
周囲の草がむき出しの肌に当たり、チクチクする感触に顔をしかめた。
草の濃い臭いはお世辞にもいい匂いとは思えず、土の臭いも含め、都会育ちの少年にはどこか臭く感じるものだった。
理不尽な状況に陥った少年の口からは弱気な言葉が出てきて、両目からは涙があふれる。
「なんでだよぅ、なんで僕がこんな目に……」
何故、と言われたところで、答えられる者はこの世界のどこにも居ない。
居るとすれば、少年を悪意で壊そうとする者と。
「なぁ。お前、どうやってここに来た?」
そこそこ人が良いのだが、それとは関係なく、星の巡りに呪われていそうな一人の青年ぐらいである。