1-18 米の草原と嵐とゴブリン未満の俺④
台風への対処はそこそこに、俺はもう、ゴブリンの集落を襲うことに決めた。
俺が台風により酷い目にあったので、ゴブリンの集落も酷い事になっているだろうからだ。
実際に現場を見ないと断言はできないけど、カード化という能力を持つ俺よりもあちらさんの方が被害は大きいはず。攻め時だと思ったのだ。
家が壊れていれば攻める場所が減るし、怪我人が出ればそれだけ戦力が下がるのと、当面の食糧備蓄に不安が出る。もしかしたら装備などもダメになっているかもしれない。
予定していた戦力はまだ集まっていないけど、それ以上に相手が疲弊してくれていれば、後で戦うよりも有利に事を運べる。
機を見て敏に。
攻め時であれば、早めに戦いを終わらせ不安を取り除くのも悪くない。
今は戦いの準備を念頭に置いているけど、それ以外の、生活レベルの向上を中心にものを考えられるようになる。
ついでに、カードの強化や進化も試したい事がいっぱいあるんだよね。
カードの強化を進化には無限に近い可能性があると思うし、それを追究していきたいんだ。
戦いを終わらせる動機は十分。
台風被害の復旧など1日や2日で終わるものじゃないとは言え、それがどの程度かにより方針の再転換はあり得る。
まずは偵察をして、それから細かい部分を詰めよう。
普段よりも泥でぬかるみ歩きにくくなった森。
慎重に歩を進め、集落までやってきた。
時間は昼を過ぎてしばらくした頃。2時かそこらだと思う。
ゴブリンたちの集落は――そこまで被害が出ていなかった。普段とそこまで変わらない生活をするゴブリンたちが、そこには居た。
家は無事で、浸水被害はそもそも床が地面そのままなので大したことでもなく、壁にあたる枯れ草が湿気たぐらい。
強風や流木やらは森の木々が天然の防壁となり、被害を軽減。枝葉は飛んできただろうが、大きな被害を出すほどでもない。
畑も何もないから、家の外の被害は考えなくてもいいレベル。
よくよく見れば、森の木々についた泥は草原のようなひざ下までもない。
つまり、この森の中は平原よりもわずかに高くなっていて、浸水被害に遭いにくいのだ。
だからこそ、ゴブリンたちは森に集落を作ったのだろう。
森の隣とはいえ平原を選んだ俺と違い、これまでの生活で森の中の方が台風の被害が出ないことを学んでいたわけだ。
自然と共に暮らしてきた生き物の知恵がここにはあった。
今の俺、経験値的にゴブリン未満。
まだこっちに来て半年程度とはいえ、ちょっとへこんだ。
台風の被害が出ていないなら、すぐに集落を襲うメリットは無い。
元はあと1ヶ月ぐらい先の予定だったので、もっと準備を整えるとしよう。
ゴブリンとデミゴブリンは合わせても15枚しかないし、部隊も2チームだけだ。最低でも、もう1チーム。『鉄の槍』を装備した部隊が欲しい。
装備の質がどれだけよくなっても、数の暴力への対抗手段を持たなければいけないと思う。
これであとは『草原狼』もパーティ化できれば嬉しいんだけど、そちらはまだ無理。
狼のカードも増やしているけど、まだリーダーに進化した個体がいないからね。
種族ごとのチーフに相当する進化が無ければ、パーティは作れないわけだ。
慌てる必要はないんだ。
本来の流れに戻り、確実に勝ちに行こう。