13-25 閑話:混乱する警察
岐阜市の警察署内は慌ただしかった。
行方不明者が何人も出ただけでも忙しいと思っていたのに、ここに来てトップである署長が犯罪者だったと言われ人事が大きく変わったので、「誰に」「何を」という部分がグチャグチャになったのだ。
止めはその署長の犯罪行為を暴くべく大規模な捜索が行われ……ある程度の結果を出してしまった事。
このままでは過労で死者が出る。署内の誰もがそれを疑わなかった。
「だぁーっ! 殺人事件の再調査? 知るか、そんなモン! あの創とかいうのが容疑者のままでいいだろ! どうせこっちに顔を出しやしないんだ、そのままでも問題ないだろ!!」
「ですが、尾張の国から物言いがありましたし……そのままという訳には」
「他の国に言われて警察がホイホイ従う方が問題だろうが!!」
「はひぃっ! しゅみません! でも、上から言われるんです! 署長の件と関係ありそうだから、って」
「なら、我妻前署長の捜査本部の一案件としてまとめてやらせておけ。行方不明者の分も追加してあるんだ。なぁに、もう一つぐらい仕事を足したところで大丈夫だろうよ。
お前、それを伝えてこい」
「あ、ああ、あの、それは出来れば他の人に……」
「お前が、逝け。グズグズすんな、さっさと動け!」
「ひゃいっ!」
警察において署長という役職は軽くなく、現在は仮の署長を置き、その人を代理として働かせている状態だ。
彼は現場叩き上げの人間で、我妻前署長とは関係性が低いという理由で選ばれたような人間だった。
現場仕事であれば能力的には申し分のない人事ではあったが、本人は慣れない仕事に四苦八苦している。
前署長が犯罪者だったという話が出て、署内は大混乱に陥った。
それはそうだろう。犯罪者である前署長と仲が良かった人、気に入っていた人、引き上げた人など、その全員が犯罪者ではないかと疑われたからだ。
警察組織内部に暗殺者の影がちらついて欲しくないという理由で、徹底的な組織引き締めが行われた。
その結果、少なくなった人員はさらに減り、仕事量は増えるという悪循環に陥る。人が減った時のフォローは、大概が本職ではない仕事のため、作業効率が良くない。
「貧すれば鈍する」とはよく言ったもので、忙しくなったことで時間と心のゆとりが無くなり、そこでも仕事の効率が低下していく。
長時間労働により体力が完全な回復をしなくなれば、更に作業効率が落ちていく。
同じ人員数であったとしても、時間をかけてブラッシュアップしていけば、今の倍は仕事をこなせるだろうが……その時間が無かった。
「もう駄目だ! 何ともならん! 国主は火急の案件とか何とか言ってるが、無理な物は無理だ!
いったん前署長の捜査を停止だ! 捜査チームを交代で休ませるのと、元の職場のフォローに回せ!
責任は俺が取る! むしろ取らせろ! ここでグダグダ言うような事があったら、今度は俺が辞めてやるよ!!」
10日もあれば心が折れる。
徐々に下がっていく効率を理解できてしまうため、もう持たないと言い出す者が増えた。
事実、徹夜仕事続きで年配の職員は死にそうだ。署内でケンカも発生している。
仮署長は、この非常事態を理由に、前署長関連の捜査の停止を決断。
組織が落ち着いてから動かなければ結果は出ないと判断した。
創は容疑者から外されたが、謝罪も何もなく、そのまま放置されるのであった。