13-23 素直に喜べない
好事魔多し。
「月に叢雲、花に風」と同じく、良い事はいつまでも続かないといった意味合いの言葉である。
人は昔から、良い事があったからと言って浮かれ過ぎないようにと、釘を刺している。
俺の場合は殺人事件の容疑者扱いされなくなり、戦争が終わって大垣市や岐阜市が平和になるというこの状況でも、素直に喜べない部分がある。
俺を容疑者扱いしていたのは岐阜市だけの話であり、大垣市での行動に制約は無かった。岐阜市にはめったに行かないので、実はそこまでデメリットが無かった。
いずれ大垣市にも何かのアクションを起こすだろう事を考えると、事前に問題の芽を摘んだとも言えるんだけど、実感は薄い。
むしろ、俺を嵌めようとした真犯人がいるかもしれないことを考えると、もう少しこのままでも良かった気はする。
戦争の方は……まぁ、良い事なんだけどね。
ディズ・オークという穴ができた事で、将来的には海の向こうから来るモンスターへの対処が身近になっていただろう。身の安全と防衛の手間を考えると、安心できるようになることが悪い事であるはずがない。
親しくなったエルフの人たちも故郷に帰れるわけだから祝うべきなんだろうけど、寂しくもある。
あと、大垣市とかは大変だったけど、神戸町は難民を労働力として働かせていたからな。彼らが居なくなることで労働力が減り、発展が遅れるというデメリットもある。
一長一短というか、都合の悪い展開ばかりでもなかったのだ。
確実に良い方に向かう、喜ぶ署長さんに水を差すほど野暮ではないが、立場が違えば喜びの度合いも変わるのである。
嫌な予感というのは、敵も署長さんと同じく、戦争によって負荷がかかり、手札を封じられていたかもしれない事だ。
戦争という重しが無くなれば、何をしてくるか予測しきれない。俺は人の世で権力者になった事が無いので、打てる手がどういったものか分からないのだ。
最近は分からないことだらけで大変だが、いつまでも嘆いていたところで仕方がない。
前向きに、どう動くか、どうすべきか考えないといけない。
なんでこんな苦労をしているんだ、と考えると、人里で色々とやらかしているからだ。
特殊な作りの金を売ろうとした。
モヒカンを殺し、堀井組と敵対し。
仲間が不当に捕まり拷問されたからと言って暴れまわり。
最近だと物資の援助も俺の手引きとバレている様だ。
さすがに越前で暴れたことまではバレていないだろうが、狭い世界でこれだけやって目立たないというのは無理がある。
自業自得と言えなくもないが、俺は普通に平穏に生きていたいだけだ。なのに何故邪魔をするのか。
目立ったことは受け入れるが、だからといって俺を駒のように使ってやろうとするのは認めない。
対等に協力を要請するなら手を貸せる範囲で協力するが、なんで命令すれば俺が従うなどと頭の悪い発想をするんだろう?
権力を持った人間はバカになる呪いでもかけられるんだろうね。他者への寛容、人の幸せを祝う心の余裕が無い。
上手く付き合おうとすれば、それだけで利益を引き出せるのに。俺に利益を与えたら自分が不幸になるとでも考えているんだろう。
署長さんを見る。
機嫌は良さそうだ。
これは良いことだと、俺も一緒に喜べば良い。
俺は素直に喜べないが、一緒に喜び、幸せを共有できた方が人生は芳醇だと思うよ。