13-22 その頃の越前戦争
殺人事件のインパクトですっかり忘れていた、もう一つの変化もあった。
「殺人事件の容疑者から創さんが外れそうだという話の他に、もう一つお耳に入れたい事があったのを忘れていましたよ」
それは、越前の戦争の行方。
多国が足を揃えて踏み入れた、対ディズ・オーク戦の戦況である。
「周辺都市の制圧は順調に終わったそうですよ。思ったよりも早く終わったので、難民の一部にはこの秋のうちに戻ってもらう事になりそうです。
現地を使えるようにするにしても、人手が要りますからね。現地人を雑役として送り込む計画を立てている所です」
そもそも元の数が少なかった周辺都市は、敵の数が病気で減った事で更に攻めやすくなり、あっさりと制圧されたらしい。
被害は少数、このまま越前まで一気に攻めるわけだが、そのタイミングを合わせている所らしい。
で、制圧した周辺都市は中継基地として使われるのだが、そこで雑役を行う人員を難民から捻出し、前線に往く兵員を増やそうという話が出ている。
「あー。それって、俺が岐阜市に人を送り込んだの、拙かったという話になりませんか?
前に聞いた話では、次の春に戻すって行っていたと思うんですけど」
「いえいえ、さすがに全員を戻せるほどではありませんからね。問題と言えるほどの事ではありませんよ。創さんが雇ったのは、ほんの数十人程度ですし」
その話を聞いて、俺は岐阜市に送る人員を確保した事がどういう影響をもたらすのか心配になった。
ただ、署長さんは気にする必要は無いと太鼓判を押す。
それでも、心情的に早く戻りたいって人もいるだろうなぁ。後でその辺の調整をお願いしないといけないか。戻りたい人は滞在を切り上げて貰っても構わないよね。ブラフとは言え、そこまで深い意味も無いし。
人が減ったとしても、戻れない人の中から追加の人員を雇えば済む話だからな。
「いやぁ、どうでしょう?
占拠していたのはディズ・オークですよ。あいつらは死んだとしても、病原菌をバラ撒いた後ですからすぐに戻りたいと言い出すかは微妙ですね。
しばらく様子を見て、それから戻りたいと言うのではないですか?」
署長さんは俺の考え過ぎだと笑っている。
まぁね。菌がどれぐらいの期間、土地を汚染し続けるのかは知らないが、1週間やそこらではないだろう。
それを考えると、春まで様子を見る人は、確かに出るだろう。
「戦況が市内にも伝わった所ですから、これで物価も多少は安定するでしょう。
さすがに越前では少なくない被害が出るかもしれませんが、相手の倍以上の戦力で攻め込むんですし、勝ちは確定しています。
創さんの件も良い方に向かっていますし、これでようやく肩の荷が下りますね」
署長さんは楽観的な意見を口にする。
本当に気が抜けた様子で、これまではそれだけ緊張を強いられていたんだろう。
厄介事がまとめて一気に片付いたのだから、嬉しそうである。
ただ、ね。
「好事魔多し」と言うからね。なんとなく嫌な予感がするんだよ。
厄介事が片付いたからこそ、「敵」の打てる手が広がるというかね。何かありそうな予感がするんだ。
こういう勘は、まず外れてくれないからなぁ。
動きやすくしておかないと、困った事になりそうだ。