13-16 酒宴①
我妻を捕まえリンチを加えた事で、一つの区切りがついた。
そのせいか、村に戻ると俺の中で張っていた何かが緩み、脱力してしまった。
「お疲れ様でした、創様」
「あー。夏鈴。ただいま」
村に戻った俺を出迎えたのは、やはり夏鈴だった。
ジンと終がいたし、今回は夏鈴を連れて行かなかったのである。
留守番をしていた彼女は、戻った俺を一番に見つけてくれた。
あの一連の仕事は人目を気にして夜中に行ったわけだが、戻ってきた今は深夜を過ぎて東雲の頃合いである。東の空の色がうっすらと変わりつつある。
そんな時間ですら、夏鈴は俺の事を待っていてくれた。
こんな時間帯に待っているのは大変だっただろうから、あとで労っておこう。
待っていてくれたことに感謝したいが、それよりも先に、一つ確認しておきたい事があった。
「なぁ、夏鈴。俺はいま、どんな顔をしている?」
「酷いお顔です。以前よりもずっと」
やっぱり。
どうやら、俺の心はまた駄目になったらしい。
前回もそうだが、怒りで動いているうちはいいんだよ。
ただ、終わった後に反動が出る。
前回は仲間が拷問を受けた事を知って暴れた時だった。
今回は部下を使い捨てにした外道を拷問にかけると決めた。
勢いに任せて動いている時には感じなかった、「人として踏み込んではいけない部分に踏み込んだ反動」が出てきたようだ。
まぁ、こうなるとは分かっていたけどさ。やっぱりキツイ。精神的に来るものがある。
いや、自覚していた分、余計にキツイんだろうな。分かっててやったのかって、俺の良心が疼く。
それと。
目の前で「またしますか?」という表情をしている夏鈴に、今回はノーを突きつけなきゃいけない。
いや、女の柔肌で心を癒すというのは確かにアリだと思うけどね。
他にも方法があると思う訳だ。
「今日は昼過ぎまで、寝る。起きたら軽く摘まむ物の用意をしてくれ。
それと、夜には酒宴を開くから。今回の傷は、酒で忘れることにするよ」
アル中には気を付けるけど、今回は酒の力を借りようと思う。
酒は百薬の長なのだ。
俺のストレスにも、きっと効くに違いない。
何度も何度も女の体に溺れるわけにはいかんのですよ。俺は男なので、格好をつけるぐらいはさせて欲しい。
寝酒をコップ一杯飲んでみると、昼過ぎどころか夕方前まで俺は寝ていた。
10時間以上ぐっすりと寝ていたようだ。頭がすっきりしている。
ただ、胃の中が空っぽなので、ものすごくお腹が空いている。起き抜けだというのに、すぐに何か食べたい気分だった。
ベッドの近くには水とクッキーと、剥いたリンゴが置いてある。喉も乾いていたのでまず水を飲み、クッキーを食べたら、最後にリンゴを齧って部屋を出た。
寝すぎたせいか、なんか回復しきっていないというか、やや体がだるい。きっと思ったよりも疲れていたんだろう。そういう日もある。
体の違和感はすぐに消えたので意識から消えた。
その事を深く考えず、俺は宴会用の広場へと足を向けた。