13-15 鏡②
拷問ネタでしっかり脅した後、俺はこの署長から話を聞くことにした。
本当の事を言うとは限らず、俺への罵詈雑言や無駄な命乞いに終始する可能性もあるけど、一応はこの事件の背景みたいなものを言うかもしれないかなと、ちょっとだけ期待しているからだ。
駄目なら駄目で、その時はその時。
ちょっとした手間で、運が良ければそこそこの収入があるかもしれない。
軽い気持ちで試せる範囲の事だからだ。
どうでもいいが、こいつの名前『我妻 正義』という。
ここまで名前が似合わない奴もあんまりいないが、子供に「悪魔」と名前を付けようとすると役所に再提出を求められるから、仕方が無いね。
万力から我妻が解放された。
その頭を護衛の一人である終が掴み、地面に押し付けた。浮かせたつま先の固定や体の上の重しはそのままだが、顔面だけが地面と再会した形である。
終は汚いものを触ってしまったという顔をしていた。
俺とジンは後ろに立ったまま、顔を見せるつもりもない。
ここから行われるのは顔を見せる話し合いではない。一方的な情報の搾取なのだ。
「じゃあ、今回の殺人事件の背景を教えてもらおうか」
俺は当然のように、説明を求めた。
しかしズタボロの我妻は特に反応が無いというか、何も言わない。
ダメージを与えすぎたようなので、ほんの少し魔法で回復させた。
「今回の――」
「あはははははは!! 流石だな、この化け物め!!」
そしてもう一度同じ事を言おうとすると、我妻はいきなり笑い出し、こちらを罵倒し始めた。
終が我妻の顔を強く地面に押し付け、罵倒を中断させる。
で、我妻は何度止めてもこちらを罵倒する以外の事をしようとしない。
自分が拷問される、殺されると分かっているから、もう自棄なのだろう。意地でも情報を渡すつもりは無さそうだ。
「俺はお前だ! 未来のお前だ!
安っぽいヒューマニズムを掲げ! 自分を中心に考えつつも敵には容赦せず! 守ると決めた物だけを守る!」
こちらをムカつかせるためなのだろう。この外道はどうでもいいことばかり言っている。
アホらしい、無駄な時間を使った、そんな気分になって冷めてしまう。
こんな奴の罵倒と比べれば、ネットで炎上している人への書き込みの方がずっと酷いぞ。
「人を駒にする? ああ、そうだ! 守るべき者でなければ何をしたって構わない!
大きな力を得て、それで好き勝手に生きるのは楽しかったか? どうせ他人などただの背景なのだろう! お前にとって他人はその程度だ!
誰かに迷惑をかける事を厭わず、人の為に動こうとしないお前が、俺と何が違う!」
この手の罵倒は、反論できるポイントが多すぎて困る。
俺は専守防衛、自分から人を傷付けようとするつもりは無い。そして自分が命令する誰かには責任を持つ。無理やり薬で動かすような真似はしない。これと同類とか、そんなものに堕ちているつもりは一切ない。
俺は対話や取引でどうにかできる事なら全部それで片を付けているんだ。
ピントのズレた罵倒など、馬鹿らしくて反応に困る。
「時間の無駄みたいだね。任せていいか?」
「承った」
俺は後の事を下忍衆とジンに任せることにした。
ジンは医者として忙しいので、拷問担当は下忍衆の仕事である。ただ、監督だけは任せておきたい。
罵倒の方はどうでもいいけど、こいつがやった事にはムカついているんだ。
簡単に逃がすつもりは無いのである。




