13-7 襲撃者
今の俺は、もの凄く焦っている。
頭が空回りそうな自覚はあるので、俺はひとまず考えるのを止めた。
情報を共有して、他の誰かに考えて貰おう。
署長さんとジンに手紙を送り、村で夏鈴に相談だ。
情報屋と別れた俺は、草原大狼の背に乗ろうとしたが、そこで隣にいた夏鈴が急に動く。夏鈴の手に持つ盾が、何かを弾いた音がした。
「跡をつけられてるじゃないか!」
情報屋は尾行されていたらしい。
襲撃者が数人、姿を見せる。そして姿を隠して弓か何かで狙っているのがもう数人。俺たちを囲むように配置されている。
俺に情報を与えないためか、そいつらは無言で俺に襲いかかってきた。
俺は焦った振りをする。
俺は常に護衛を連れているし、草原大狼は鼻が利くので隠れた所で無駄である。
と言うか、これぐらいなら想定内であった。
むしろ俺の方がこの状況を狙っていた。
「夏鈴、凛音、莉菜! 俺の身を守れ! オーディンは自由に動け!」
「「「はい!」」」
大声でやりとりをして、焦っていることをアピール。
俺は大根役者だが、こんな所で名演が出来る才能は無いので勘弁して欲しい。
ぶっちゃけ、俺が注目されていればそれで良い。
俺の護衛が、いつもの三人娘だけだと勘違いしてくれればそれで良いんだよ。
オーディンが襲撃者に襲いかかる。
剣を手にした襲撃者はオーディンの巨体にのし掛かられると、それだけで戦闘不能になった。
胸の所を体重約500kgのオーディンに勢い良く押さえつけられたのだ。肋骨が逝っただろう。
ぶっちゃけ、このままオーディンに任せていても良さそうな展開である。
だが、こちらの手駒はそれだけではない。
魔剣、魔槍、魔術の3部隊を隠し持っていた。
夏鈴は魔法でこっそり彼らに連絡を取り、奇襲を成功させる。
目に見える敵には魔法が打ち込まれ、隠れていた連中は魔剣と魔槍に貫かれて殺された。
自分たちが襲撃をかける側だと思っていたのだろう。獲物である俺の行動に注目していたが、最初からこの場所から少し離れた場所に隠れていた3部隊には気が付けなかったようだ。
余談ではあるが、夏鈴は魔術的に視野が広く、彼女に奇襲を成功させることはほぼ不可能である。半径500mぐらいの人間を把握するなど容易く、盾の扱いなど防御系の能力も高い。
500mを1秒以内に駆け抜けられるようなのがいれば可能だろうけど、そんな奴はまずいないので不可能と言い換えて良い。
本来であれば戦場を把握して指揮をするための能力であるが、普段はこうやって自衛に使っている。
まぁ、奇襲とか考えずに戦力で押し切ることは可能だと思うけど。その時は凛音の攻撃魔法が火を噴くだけだから、どうにかするのは難しいんじゃないかな。
いざとなったら追加戦力を召喚する気でいたけど、手持ちの戦力だけでどうにか出来た。
何人かは瀕死だけどまだ生きているので、尋問タイムだね、と思ったが。
「舌切りかよ。口封じにしても、なんつー事をしやがる」
「喋れなければ情報漏洩もされない、でしょうか?」
相手の行動が一々エグい。
この展開も想定範囲内なのか。対応されていた。
こいつらは字は書けるかね?
上手くいったと思えば上手くいかず。
色々と、面倒なことになっているよ。