1-16 米の草原と嵐と???②
「確かに! こりゃあ! 人も住まないね!!」
秋の中頃、そろそろゴブリンの集落を攻めに行こうかという時期。
俺は浸水した家の外で、ゴブリンたちと家の修復を行っていた。
「カード化が無かったら! 詰んでるぞ!!」
台風により発達した雨雲は激しい雨を降らせ、周囲一帯を水で飲み込んだ。
最初は雨が降ってるな、風が強いな、としか思わなかったけど、地面がぬかるむどころか水に覆われ、その嵩が増していくにつれて危機感をようやく抱いた。
俺の『木の家』は床が地面よりも高い。
板張りの床は地面から10㎝は高く、簡単には浸水しない。なので、ちょっと水嵩が増したぐらいなら大丈夫だと思っていた。
これまでも大雨は何度もあったし、地面が水没したかのような事もあった。
だから今度も大丈夫だろうと、今までの経験を根拠にそう思っていたんだ。
しかし、この規模の雨は想定外だ。
慌てて俺は入り口のドアの下に詰め物をして、浸水対策を行った。
入り口のドアの下は、何度もドアを開閉したことにより隙間が出来ていたのだ。もとより、ドアまわりにはそこまで気密性も無かったが、これで俺は浸水をずいぶん遅らせることに成功していた。
だが、想定外というのはそれ以上の猛威を振るう。
ドアの下の方は大丈夫だったが、その少し上、床下から20㎝のところから水が入ってきた。
ドアは外に向けて開くタイプだったので水圧でこじ開けられる事こそ無かったものの、水は容赦なく家の中に侵入してきた。
俺はそれを必死に防ぐ。
そして俺がドアの方にいる間に、家に何かがぶつかり、壁に穴が開いた。
かなり頑丈な木の家は、自然の猛威に屈した。
俺は家の中の物をカード化してから外に出て、夏鈴たちと連携し、応急処置として中と外から穴を塞いだ。
そして流れてくる何かを防ぐよう、台風の中、丸太で簡単な柵を作る。
「死ぬかと思った」
家には屋内でも火を使えるようにと、趣味で囲炉裏を作ってある。
まぁ、箱の中に灰を敷き詰め、延焼しないようにしただけの、なんちゃって囲炉裏だが。
囲炉裏も浸水していたけど、スペルで無理矢理乾かし、炭に火をつけた。
俺は囲炉裏で暖を取りつつ、冬に備えて作っていた『ホットミルク』を飲み、一息つく。
手伝ってくれたゴブリンたちにも、熱々のままカード化した『具無しシチュー』改め、『肉入りシチュー』を振舞う。暖かいミルクはもう無いが、ついでにお湯も渡す。
そうやって、疲れたけど台風が通り過ぎるまで眠らないようにしつつ、俺は今後の事を考える。
こんな事が年一回でも定期的に起きるのであれば、普通は住処を別に移す。
俺だってかなり後悔している。
毎年かどうかは知らないけど、台風の被害がこれぐらい大きいのなら、定住する馬鹿はまずいないだろう。
だが、ここまで人を拒絶する土地なら、隠れ住むにはちょうど良いとも言えた。
俺一人、家一軒なら何とかなるだろう。
今のところ、台風対策はいくつか思いつくから移住は無しかな。
俺はゴブリン退治後の予定に、台風対策を入れておいた。