13-3 冤罪③
殺人事件が起きたのは、俺が大垣市から村に帰った日の夜。
現場は岐阜市の路上。
目撃者はおらず、犯人は不明。
死体は食い荒らされた跡があり、その状況から大型の獣にやられたのではないかと言われている。
犯人の候補は俺以外にもいるかと聞いてみたけど、いないらしい。
状況証拠と動機だけであるが、目撃者が全くおらず、推測で大型の獣が殺したという話になったため、他の候補が現れないそうだ。
犯人がただの野生の獣であれば、殺害現場周辺で目撃情報が入るはずというのが、岐阜市の警察の主張らしい。野生の獣であれば目撃者がいて証拠も残しているだろうから、逆説的に殺人事件であるとなったという。
そして俺は草原大狼を使役している所をこれまで何度も見せているため、関連付けられたのだ。困ったことに、直前にあの女は大垣市で俺を求め暴れていたので、動機も有ると思われたのが痛い。
普通に考えて、獣に食い殺された様というのは、ただの偽装じゃないかと思う訳だが……だれもそこを疑っていないらしい。
ちょうど都合よく犯人にできそうな人間がいるのだから、そいつを犯人に仕立て上げればそれでいいだろうと、そんな手抜き感情で動いているため深くは考えないようだ。
あの女はあんなのだから周囲から疎まれており、国主の娘なのに取り巻きもおらず、本気で犯人探しをすると容疑者が多すぎて調査が大変なのだ。
今は戦時下なので人手が戦地に取られた事もあり、岐阜市の警察は殺人事件だがさっさと終わらせたいのが本音だろうと署長さんは推測している。憐れ。
犯行当時の俺は神戸町で一泊しているのでアリバイは特に問題無し。
ニノマエに顔を出し、爺さんと夕飯を食べ、いつもの宿で寝ている。
証言はいくらでも得られるので、大丈夫のはずだと言いたいのだが、困ったことに、証言が信用されない可能性も指摘された。
「神戸町での創さんは人気者ですからね。庇って嘘を吐いていると言って、頭ごなしに否定し、証言として扱わない可能性の方が大きいですよ。
本来であれば証言は複数の証言が矛盾しているかどうかの確認を行い、話の筋道が通っているかどうかで判断するんですけれど。親密な人からの証言は誤魔化しが混じるので、大きくは扱わないんです」
「なんだ、そのダブルスタンダードは……」
親しい人の証言は証言と見做さないとか、そういう事か?
だったら証言なんて、何の意味もないじゃないか。
アリバイなんて誰も証明できなくなる。
「残念ですけれど、捕まえた人間を犯人に仕立て上げた方が早い、そう考える警察官は一定数居るんですよ……」
署長さんも悔しそうである。
これがもっと重大な事件であれば犯人を捜さないと次の事件が起こるとか、そういった危険があるので本気になる。
ただ、あの女の場合は殺されたのに悲しんでいるのは父親ぐらいで、本気で探すモチベーションが無い。
手抜きでもいいだろうと、そんな扱いなのだ。
あと、俺を捕まえたいという事情もある。
「創さんは錬金術師として知られていますからね。捕まえた後は強制労働、そういう訳です」
……面倒くさいなぁ。
これじゃああの女が殺されたのはむしろ好機で、本命は俺を労働力として確保する事じゃないか。