13-2 冤罪②
基本、俺はあの女、『紗良』のような人間は嫌いである。
会話で解決できない事もあるが、そもそも会話にならないような人間は駄目だと思っている。
ゆえに関わり合いになりたくないし、さっさと死んでしまえば良いと考えていたが、殺す気は無かったから何もしていない。
ジンは念のために俺へ連絡をしたが、ジンもやっていないと言っている。ジンが嘘を吐いているという事は無いだろう。
あの女が殺されたと聞き、大垣市で署長さんと会う約束を取り付ける。
普段は定期的な会合だったので約束など要らなかったけど、今回は突発的な訪問なので署に入ってアポを取るようにお願いしたわけだ。
俺はこれまで何度も署に入っている。受付嬢とはすでに顔見知りなので、すぐに話が通った。
俺は話を聞いていた署長さんから、紗良殺害の容疑者として尋問を受けた。
拷問ではなく、ちょっと厳しい質問攻め程度であったが、ここ最近のアリバイ確認をすることになった。
署長さんは「俺から手を出さない」と宣言した事もあり、一応信用をしている。なので厳しい取り調べなどはされない。されたのが尋問であり、誘導尋問でもなければ恫喝でもない。ただ、強制的に回答を求められただけである。
全幅の信頼とまでいかないのは残念だが、最初からこちらの言い分を疑ってかかるような真似をしてこないので、そこは問題無いとしておく。
俺が無実と確信していても疑わねばならないのが警察だ。容疑者扱いされた程度で怒るつもりは無い。犯人扱いであれば多少は怒っただろうがね。
「成程。アリバイは特に問題無し。
周囲の証言の裏付けもあります。動機だけで疑う訳にもいきませんし、これ以上の拘束はしなくてもいいでしょう」
「ありがとうございます」
「いえいえ。創さんが犯人とは思っていませんでしたから。むしろ協力的で助かりました」
「関わっていないと分かっていて、聞く側もこちらの話をちゃんと聞いてくれますからね。話し易くて助かりました」
これが、俺が何か言う度に「嘘を吐くな!」と怒鳴り散らすような真似をされれば、こちらもブチ切れただろう。
だが、行動の流れを確認し、時々詳細を詰めて聞かれる程度であれば、こちらも安心して話ができる。わざわざ署長さん自らが話を聞いていた事もあり、こちらの返答もスムーズだ。村の位置を特定するような変な質問もされなかったしね。
「しかし、創さん。私たち大垣警察署は創さんの無実を理解していますが、岐阜市の警察署では話が違ってきます。出頭命令は出ないでしょうが、出頭要求の通達ぐらいはあるでしょう。
岐阜市に行けば、当然、捕まるでしょうね。こちらから話を通しておきますが、所轄が違いますし、自分たちでも取り調べを行いたいと言い出すでしょう。
そしてその場合、求める答えを言うまで拘束される可能性の方が高い」
尋問は終わったが、署長さんは、それは大垣署だけの話だと念を押す。
岐阜の警察署は独自の行動を取るから、ここで無実を勝ち取っても、無実なのは大垣市の中だけらしい。岐阜市では未だに容疑者だ。
「そう言えば、俺は手紙でアレが殺されたと聞きましたが、どうやって殺されたんです? 大垣市だったんですかね?
いや、どうして俺が容疑者扱いされているか分からないのですけど」
岐阜市で未だに容疑者というのは面倒だけど、それをここで言っても仕方がない。
なので、俺はこの事件の概要を説明してもらうことにした。
警察署で身を隠し、囮を使って逃げ出してそのままなのだ。
囮に使ったゴブニュートも追いかけられることなく大垣市を脱出していたので、顔を一度も合わせておらず、大した動機も無いわけだ。
俺が容疑者になるということ自体が理解不能であり、どこからそんな話になったのかと思ったわけだ。
俺がそうやって疑問を呈すると、署長さんは「え?」という顔をした。
俺がアレとこれまで一度も顔を合わせていない事は、先ほどまで説明していたので分かってもらっているはずなんだけど……。
「ああ、いえ。紗良さんが殺されたという話を聞いてこちらに来たのだから、そのあたりも説明されていると思っていたものでして。
紗良さんは、大きな獣に食い殺された、という話です」
……だからか。
草原大狼を使役する俺なら、確かに容疑者になるよ!