13-1 冤罪①
「あまり知られていない事ではありますが、国主様には5人の子供がいます。
あの方、末っ子で一人娘の紗良様は……まぁ、ああいう方でして。たいして力を持っておりませんし、国主様もそこは弁えていますから、カイさんに何かあるという事は無いでしょう」
署長さんは先ほどの女について説明をしてくれた。
厄介そうな生まれではあるが、上の子供4人と比べ色々と残念であるため、ああいった、尊大な態度を取っているというのが実情らしい。
言葉遣いは兄達から学んだんだろうけど、虚勢を張らねば生きていけないみたいだね。
で、父親の方は、末の娘という事で甘い態度を取りはするものの、能力が無いから実権は渡していない。
さっきもお供は連れておらず、突破されそうになったのは女だったからというだけ。男の警官が無理矢理押さえつければ、セクハラで捕まってしまうからだ。そういう部分は娘に甘い父親みたいだね。
署長さんは、アレは煩いだけで基本的に無害だと説明してくれた。
そうなると、気になるのは俺を「錬金術師」と呼んだこと。
「カイさんが持ってくる回復薬、暴れていた時に連れていた通常ではありえない力を持った大きな狼、極めつけに金を作った能力。それらを繋げると、我々の中で錬金術師という結論に至ったんですよ。大垣の議会ではそれが共通の認識です。
ああ、金を作っていたというのは死んだ金野議員からの情報なので、誤魔化しは効きませんよ」
「なんか、ずいぶん評価されてたんだね、あの糞爺」
「金属の声を聴く、そういうギフトでしたから」
これまでの実績により、俺は錬金術師という扱いになっていた。
方向性は間違っていないが、根本的に違う生き物だと思うが、否定するのは面倒なので、肯定も否定もしないでおこう。
錬金術師は自身を神に進化させるため、賢者の石を作ろうとしている連中。
俺の能力は他者を進化させる事はできても自分は対象外なので、何をしても俺は人間のままだ。
ただ卑金属から金を作るだけの錬金術であれば使えるので、そういう視点では間違っていないし。
議会に俺の情報が知れ渡っているのは今更だ。そこは突っ込む気にもならない。
聞きたい事を聞き終えた俺は、署長さんのお願い、「あの女を殺さないで欲しい」という要求を呑んだ。
あれは煩いしまとわり付いて来るだろうけど、無力で実害はありませんよというアピールを必死にされたので、頷く以外の選択肢は無い。
殺したら国主が本格的に敵対するだろうし、あの手の連中は殺したいとか死んでほしいとは思うが、権力による強制命令などをされないのであれば殺すまでもない。ムカついたから殺すほど短絡的なつもりもない。
あの女そのものはどうでもいいが、殺せば署長さんとの縁を切ってしまうし、生かしておく価値も無いが殺す価値だって無いのである。
関わり合いにならず済むのであれば、それでいいと思っておこう。
あの女に踏み躙られた俺の知り合いの誰かが居なければ、動く理由は存在しない。
と、まぁ、俺は何もしないつもりだったんだけどね。実際に何もしていないんだけどね。
大垣市から帰って数日後、俺の所にジンからあの女が何者かに「殺された」という手紙が届いた。
ジンも殺していないわけだが、現在犯人捜索中。
そして俺は容疑者である。
……は?




