12-25 そして秋になる①
「岐阜市ではご活躍のようですが、大垣には救済が無いのでしょうか?」
「はて? 何のことでしょうか」
もうそろそろ、出陣の時期。
人に物資に運搬手段。様々な物が手配され、積み上げられていく中、俺は大垣市を訪ねていた。
そして話相手はいつもの署長さんである。
そして署長さんからは、非常に恨みがましい目で見られることになった。
理由はもちろん、岐阜市で売却した大量の物資である。ここでも鉄製品を売り多少は貢献しているのだが、岐阜市と比べると少ないというのは誰の目にも明らかだ。
こちらは善意を示しているのだが、自分でバレ無くしているとはいえ、こちらの意図が伝わっていないのは悲しいね。
「はぁ。最近は鉄の価格も落ち着く兆候を見せつつありますが、まだ高いままです。食料は少し先の収穫まで天候が落ち着いていれば何とかなるでしょう。
ですが、岐阜市のように、どこかの誰かが手を貸してくれれば、もう少し楽だったのですけどね」
「鉄だけでも落ち着くならまだいいじゃないですか。食料の方も、まったく足りていないという訳ではないんでしょう?」
「そうですね。鉄だけでも良かったと見るべきですか。
それにしても、これまでの備蓄、市民の安心を支える保険が無くなっただけでこれですからね。転売を行った連中には相応の罰を与えていますが、それよりも市民の皆さんにはもう少し考えてから動いて欲しいと言いたくなりますよ」
訂正。
鉄の件は薄々感づいている模様。
そして話題が転売ヤーの話になった。
捕まった連中は、購入した物資を無料で供出させられ、そして儲けを出していればその儲けも市が全部回収していったし、更には規模に応じた罰金も科せられたので、転売ヤーは減り市の財政だけを見れば潤っているようにも見える。
ただ、市議会は物価の上昇を抑えられなかった事、物資を市場に戻すまでに発生するタイムラグによる混乱で、ずいぶん評価を落としている。
転売ヤーは数が多く狡猾なので、人手が必要になる。
警察は治安悪化に伴う人手不足で警察も機能がマヒしかけていた。
そして結果が出なければ評価が下がるのである。世知辛いね。
市が破綻しないギリギリ生活は多少の金銭でどうにかなるものではなく、総合的に考えれば大きなマイナス。
それが署長さんの現状であった。救いを求めてしまうのも致し方ないだろう。
そんな中でも俺に何かを直接頼まないあたり、我慢強く引き際を弁えている所は好感が持てる。これからもいい関係を続けていきたいものだ。
俺と署長さんのやり取りは互いに慣れたもので、ポンポンと話が進んでいく。
どちらかというと俺に合わせている署長さんの気遣いによるものだが、互いの理解が進み手を取り合っているからこそ話が上手くいくんだ。
こういったところで俺たちは気が合うと言うか、連携が取れている。
一つの話が終わりかけた所でいったん休憩を取り、お茶を出してもらったところで、外が騒がしくなった。
「ちょっと! 困ります! 来客中なんですよ!!」
「例の男が来ているんだろう! 邪魔をするな!!」
警官がここに来ようとしている誰かを止めようとしている。
男のように乱暴な喋り方だが、声の感じからすると若い女性のようだ。
署長さんは慌てて俺に隠れるように指示を出すと、窓を開けてから署長室から出ていった。
何が起きているんだろうね?