12-24 ぜいたくな悩み
岐阜市の方では、俺が持ち込んだ食料と鉄で一悶着あったらしい。
というのも、それだけの量の食料と鉄をどうやって調達したのか、何か犯罪に手を染めているのではないかと、持ち込んだ連中が疑われたからだ。
実際に怪しい出所の品である事は間違いないが、中身の品質は確かである。
持ち込み先を理由に騒ぎを大きくした奴は、おこぼれを狙っての犯行だったようだ。
適正価格で売るという品を前に、岐阜市の役人がフォローを入れ、事なきを得たらしい。
ジンからは売り先についての指定が無かったので、そのままその役人に「また疑われたくないから」と相談を投げかけ、岐阜市で物資をすべて売却してミッションコンプリート。
その優しいお役人さんには、少しばかり心付けを渡したそうだが、二度目は無いからただの偽装、商売上の様式美だね。
で、上手くやった連中を労いつつも、ジンから届いた岐阜市の経過報告を読む。
「多少はマシになった、と。まぁ、簡単に解決する話でもないか」
「創様。あのような行為に意味はあったのですか?」
「ゼロではない。焼け石に水。でも、無駄ではなく救えた命はあっただろうね」
物価は未だに乱高下を続けているが、その幅は少しマシになったらしい。
また、喧嘩による怪我人の発生は以前と比べかなり減っているらしく、手紙の締めには感謝の言葉が綴られていた。
「恨まれたもんだな」
「そうなのですか?」
「ああ。言外にこう言っているんだよ「あの時食料を半分にされていなかったら、もっと多くの命が救われたでしょう」ってね」
「……度し難いですね。ですが、気のせいでは?」
「そうでもないさ」
ジンの役目の一つは情報収集役で、あいつの書く手紙は、送る情報を圧縮するようにしないと書くスペースが足りなくなる。
情報を送る時は何を書くべきか優先順位を良く考え、必要最低限の言葉まで文面を削り、紙に対しびっしりと文字を並べる事になる。
余白の生じる余裕など無いのが普通だ。
しかし今回送られてきた手紙には、紙の最後の方に余白が存在する。
つまりは、紙に書けない事があると、そんな意思表示である。書けない事、つまりは不満なわけだが。
俺にはジンの心情がなんとなく想像できて、口を噤んだがあの時の判断に納得しきれないと、その意志だけはしっかりと伝わるよう余白を作ったとすぐに分かった。
理由は不明だが、同じ男だからか、俺はジンと言葉にできない部分で通じている気がするよ。全然嬉しくないけど。
ニノマエを使った神戸町への食料支援は継続中。
対価は貰っているから支援というか、ただの商売と言ってもいいんだけどな。
食料が安定している事もあり、その他の品も値上がりを控えている様子。
大垣市には、鉄だけこっそり売却しておいた。
適当な鉄製の道具、包丁や鍋などの形で売り払ったのだ。これなら「食料が足りなくて、金が要るから」とでも言えば疑われずに済む。
念のために、売却したのは『ヒューマン・スレイブ』だけどね。
全部合わせても100㎏に届かない程度の量だったが、やらないよりはマシだろう。
この件で問題を一つ上げるとすれば、使い道のないお金が貯まった事ぐらいだ。
普段はニノマエの事業に資本を投下しているのだが、今回の稼ぎはそれで使い切れる額じゃない。短期間で稼ぎ過ぎたのだ。
店を拡張するとかは考えていないので、どうしようかと思案中だ。
定番の孤児院とかをやる気は無い。
道路だって作らない。
欲しい物はたいがい自前で用意するので、あえて高い金を払い買いたい物が無いのだ。
大垣市に家、別荘を持つという手があるけど、そこまで必要じゃないからな。
使う予定のない金を過剰に集めれば、経済に混乱を引き起こすというし。
何か、俺にメリットのある散財ってないものかね?