0-1 ゼロスタート
「頭、いてぇ」
眠りから目が覚めると、とにかく頭が痛かった。
ガンガンと頭蓋骨の中で何か音が響いているというか、ナイフでかき回されているというか。
とにかく堪えがたい痛みだ。
俺は体を起き上がらせるけど、痛みで目を開けられない。
だが、上半身を起こした状態で頭を押さえ、しばらくそうしていると、自分の状態に違和感を感じるようになった。
外が明るいのは何となくわかる。
だが、風が冷たく、草の臭いはまるで外にいるようだ。
そして先ほどまで寝ていた場所も雑草の感触で……地面だよ! ベッドじゃない、地面で寝ていたんだよ!
寝ていたのは外じゃないか、そう気が付いた俺は痛む頭を無視して目を開け、辺りを見渡す。
「はは……夢かよ、これは」
思わず乾いた笑いが口を吐いて出た。
俺の目の前にあったのは、民家一つ無い草原と、先に見える山々や木々。
記憶にない光景。
そして、全く思い出せない自分の情報。
今いる場所も、自分の名前すら思い出せない俺は、これからどうしようかと途方に暮れた。
天に上る太陽は中天に差し掛かっており、既に昼近い時間である事が分かる。
雲は少なく、日差しが温かい。
そんないい天気の草原で、俺は自分の持ち物を確認していた。
「カードが二十枚。まぁ、まだマシか」
俺の手元には、召喚用のカードが二十枚だけしかなかった。
身につけているのは肌着と下着、あとは何もない。
手にしたカードの内訳はこうだ。
『塩パン』三枚
『ミルク』三枚
『リンゴ』一枚
『水の小樽』二枚
『平地』一枚
『木の家』一枚
『鉄のナイフ』一枚
『鉄なべ』一枚
『麻布の服』一枚
『革の靴』一枚
『火口箱』一枚
『ゴブリン』一枚
『マナボルト』二枚
『ヒール』一枚
記憶も何もない状態から生きていくのなら、初期カードとしてはバランスが良いと思うよ。たぶんだけど。
バランスが悪かろうが、どうしようもないとも言うけどね。
「服と靴があったのは助かったな。≪マテリアライズ≫」
嘆いていても仕方がない。まずは格好を整えないといけない。
俺は『麻布の服』と『革の靴』の二枚を物質化する。
すると、俺の魔力を消費してカードに描かれている服と靴が姿を現した。イラストとフレーバーテキストの表記通り、成人男性用の一般的な服だ。
うん。ちゃんとスキルは使えるな。
俺は服を身につけ、靴を履いた。
服の着心地は良くないし、靴は俺の足にフィットしていないけど、そこは今後の強化次第。早くカードのレベル上げをしよう。
動ける格好になったら、次は腹ごしらえだ。
俺はそれぞれ三枚ある『塩パン』と『ミルク』のカードを一枚ずつだけ物質化し、胃袋に収める。
パンは固いし小石でも入っているのかジャリっとした。ミルクは生ぬるい上に青臭い。どちらも美味しいとは言えないが、食えるだけましだろう。そう思わないとやってられない。
食事が終われば『鉄のナイフ』で気休めの武装をして、使用後で二四時間のチャージタイムに入ったカードをポケットにしまう。
そして最後に本命のカードを使う。
「≪サモン≫『ゴブリン』」
これから移動をするにあたって、丸腰で無警戒というのはあり得ない。
俺はモンスターのカードで護衛のゴブリンを呼び出し、森の方へと向かった。
なお、ゴブリンは俺より頭一つ背が低く、ツルツル頭で耳の尖った、肌が緑色の人型モンスターだ。
ファンタジー定番の邪悪な雑魚モンスターだが、今は俺をリーダーと認めて付き従っている。割とおとなしい。性別は雌。
装備は木の棍棒と腰みのだけ。まぁ、そんなものだろう。
「水場が早く見つかればいいけど。『水の小樽』は二枚あるけど、無駄遣いもできないからなぁ」
水場と言えば、草原よりも森だろう。
俺は一先ずの生活拠点に森を選び、そちらの方へと歩いて行った。