12-10 転売ヤー②
買い占めて値段を吊り上げ、適当なところで放出して差額で儲ける。
他人の迷惑を考慮しなければ、上手い稼ぎ方である。
こういうのは株のトレードでも似たような話があり、こちらは確か「仕手」とか言ったか。
株も取引を通して値段操作をすると、違法だったと思うけど。
この手の話は自由経済を掲げ、経済に対し政府があまり口出ししないようであれば、仕掛けた側が損をする事はあまりない。
大衆の心理を上手く利用しているので、悪意ある誰かが仕掛けた価格操作と分かっていても、それに乗るしかないのだ。
「市場から物が消える」恐怖が、値の吊り上げを見逃してしまう。
最悪、値のつり上げに失敗しても手元に現物があるので、それを小売りすれば済むだけだ。
購入元が卸売店なので、その場合、通常の小売りをするために購入したと言える。
あ。
そうやって逃げる可能性があったな。
買った後、値がどんどん高くなるので、売るのを少し遅らせたとか言えば、特に不自然、不思議でもないか。
値を吊り上げるために卸売店から物を買ったと言えば、確かに犯罪だ。外聞が悪い。
しかし、手元の資金その他を考慮して自身が考える規模の商品を求め、結果として値が吊り上がってしまったというのであれば、それは不可抗力だ。
これを見極める事はできるのだろうか?
「こう言いう時は、品目と結果論で話を進めています。
いやはや。政府は食料品関係は物価の統制を行っているのですけれど、それを無視する輩が現れるとは。残念な話ですよ」
大垣市で署長さんに話を聞いてみた。
そうすると署長さんは、明らかにやった奴を馬鹿にしたような、怒りをにじませる表情をしていた。
俺は判断材料がよく分からないが、今回市場が混乱した事で、完全に違反行為判定になるらしい。
誰がやったかを特定するのは簡単なので、すでに犯人を逮捕し終えていて、警察で購入された物資を抑えているという。
動きが早いな。警察が優秀だ。
「こういう時に動きが鈍いと、民衆が暴れますからね。警察にはそういった事が無いようにと、相応の権限が与えられているのですよ」
これまでにも似たような事があり、被害が出たのだという。
それで過ちを繰り返さぬように、強権とも言える今回の行動が許されているのだ。
人間、歴史は繰り返すというか、アホの考える事は同じらしい。
署長さん自身、この対応も初めてではない。
割と短いスパンで「自分は上手くいく」と考える馬鹿が現れるようだ。
それなら安心かな。
回収した物資が市場に流れれば、じきに状態は回復するだろう。
他所への波及はしないだろう。