12-8 エルフが無事な理由
エルフたちはこうやって追われる事が多いのかな、と思った。
言葉は悪いが、異種族なんてモノと人間が簡単に相容れ合うとは考えられない。
肌や髪の毛の色ですら殺し合いを正当化する理由に据えるイキモノが、種族そのものが違う相手と争わない、などと考えるのは脳味噌がお花畑としか言いようがない。
個人レベルで仲の良い誰かと誰かがいても、種族単位で見れば殺し合い、憎み合っていても不思議ではない。
とは言え、俺相手にちゃんと礼節をもって接してくれるし、約束破りなどの不義理を働かれたわけでもない。
この手の問題は繊細であるし、部外者の俺がわざわざ嘴を突っ込むのも失礼にあたる。
俺はこれまで通り、エルフたちに出来る範囲の支援を行い、友好関係を維持していけばいいだろう。
さて。
酒の席でこんな話をいつまでも考えているのは空気が読めないな。
もう少し、シンプルに宴を楽しもう。
細かい話をいったん棚上げして、今宵は思いっきり酒を飲もう。
酒を飲み過ぎたせいか、頭が痛い。二日酔いだ。
こんな事もあろうかと、ではないが、癒術部隊を一人同行させているので、コップ一杯分の水分を補給してから『ヒール』で治してもらう。
二日酔いは頭の中の水分不足だからね。水無しでは『ヒール』の効きが悪いのだ。
回復した頭で周囲を見渡すと、俺と同じく酒に酔って潰れた人たちが死屍累々といった有様だった。
俺自身、外で雑魚寝をしていたようだ。『ヒール』のおかげで回復しているが、そのままだったら体の節々が傷んでいた事だろう。
そして、『ヒール』を貰っていない彼らは、例外なく辛そうであった。
……飲み過ぎても飲まれなかった勇者たちは、この場を辞して家に戻り、そこでまた飲むという行為をしているわけだが、彼らが本当に人類種の一つなのか怪しいとしか言いようがない。
体のつくりが根本から違いそうだ。
辛そうな御同輩たちだが、そんな彼らまで回復しに回らせるという事はしない。
俺たちがやるのは、水を飲ませる事と、二日酔いに効く薬草を噛ませることまでだ。
二日酔いには水を飲ませるのが大事なのは先ほど言った通りだが、薬草の方は、ただの頭痛薬代わりで作ったものである。
二日酔いに特化しているわけではないので効きはいまいちかもしれないが、無いよりはマシであろう。
噛むと苦味が口の中に広がるけど、しばらくすると頭がスーッとするので重宝している。気付けにもなる、俺のお気に入りだ。
ベースがミントだからか、苦いフリス〇というイメージで作った。
持ってきた酒が1日で半分以上消えてしまったが、楽しかったので良しとしておく。
「我々が大丈夫なのは、案外、創殿に支援してもらっているからではないかな。
こうやってたまに酒を飲み、笑い合えるだけでかなり違うと思うよ」
「そういうモノですかね?」
「ああ。人とは、意外と単純な生き物だからね」
帰り際、白石さんとは別のエルフさんがそんな事を言っていた。
まあ、酒好きなら酒を飲めばそりゃご機嫌にもなるだろうけど。
「いや、そういう事ではなくてだな……」
彼が何を言いたかったか、今一つ分からなかったが、エルフは大丈夫という事で。
問題が無いのだから、それでいいかな。