12-7 エルフ……難民?
エルフの難民キャンプ。
ここは1年という時間が経過したことで、エルフ村になっている。
俺は手土産の酒樽を物資を管理している人に引き渡すと、俺担当の白石さんの所に足を向けた。
「何と言うか。もうここに定住すればいいんじゃないですかねぇ」
「いや、故郷に帰れるようであれば、帰りますよ」
「ああ、うん。失礼しました。大垣市の難民とは明らかに違ったので」
エルフの難民キャンプは、木造建築が並び畑などもある、ちょっと田舎の村といった雰囲気の場所になっていた。
家がテントだったのが木造建築になっただけでも、十分村っぽい。柵とか防御設備でキャンプ地の回りを囲っているし、畑がいくつもあるので、食っていく事は可能だろう。
井戸は無いけど、湖が近くにあるので、水はそこから汲めばいい。そこまでの道も整備されている。木を切り倒し背の高い草を刈り取っただけのデコボコした道だが、彼らがここに来てそこまで経っていないと考えれば立派な道だと思う。
戦争に勝てれば彼らはここを捨てて故郷に帰るというが、ここまで頑張ったんだから、残しておけばいいのに。
「戻ったら、荒らされた故郷の修繕が必要ですからね。ここに人を残す余裕なんてありませんよ。村とここを行き来するのも大変ですし、持っていける物は持っていきますが、後は何もしません」
エルフの人数はそこまで多くない。
戦争で減らされたこともあり、ここには300人ぐらいしかいない。
確かに、人を複数に分割しては立ち行かなくなるだろう。戯けな事はできないと、そういう事だ。
村が村として機能するにも、人数は必要なのである。
酒を酌み交わす中、白石さんらと秋の戦争について話をしてみた。
「ウチからも人は出しますよ。多くは出せませんが、全く何もしないわけにはいかないですから。
プライドの問題とかではないですね。ただ、そうせずにはいられないだけです。
だって、越前は我々の国なんですから」
根本的なところで、大垣市の難民とエルフの間には意識の違いが出ている。
エルフたちは人間に交じって暮らす事を良しとしないで自分たちだけで村を作り、難民となっても人の近くに行かないようにしている。
俺がここにいるように、閉鎖的というか排他的と言うほど人間を拒絶しているわけでもないのに、混ざる事をはっきりと拒絶する。
色々と人間と違う種族である事も関係しているんだろうけど、その「混ざれない」理由が、自立心を養い、意識に違いを作っているのかもしれない。
「そうでもありませんよ。
エルフは弱い。人と深く交われば食い物にされて終わるだけです。
適切な距離を取り、隣人である事が大切なんです」
現代日本のニュースで聞いた、大国に飲み込まれた少数民族の話を思い出す。
白石さんの言っている事は、それと同じような話なのだろう。
この話をしている白石さんの横顔がどこか悲しそうで、それが俺には印象的だった。